ジャンル 文学の心

中野校

イーハトーブの光と影―大正・昭和初期を駆け抜けた宮沢賢治と作品の祈り

  • 秋講座

大島 丈志(文教大学教授)

曜日 火曜日
時間 10:40~12:10
日程 全6回 ・09月29日 ~ 11月24日
(日程詳細)
09/29, 10/06, 10/20, 10/27, 11/17, 11/24
コード 330124
定員 24名
単位数 1
会員価格 受講料 ¥ 17,820
ビジター価格 受講料 ¥ 20,493

目標

・日本近代文学作品を読解する力を身につける。
・宮沢賢治作品の特徴をつかみ、その上で読みとく力を身につける。
・大正時代から昭和初期の日本文化に対する理解を深める。

講義概要

大正から昭和初期という時代は、都市がモダンな文化に沸く一方で、冷害や米価の乱高下による経済的不安がありました。また雑誌『赤い鳥』を中心として童心主義が流行し、同時にその芸術性が厳しく批判されるなど、「光と影」が強烈に入り混じった時代でした。本講座では、大正から昭和初期の時代の鏡ともいえる宮沢賢治の詩や童話を深く読み解き、宮沢賢治が科学の目と宗教的な情熱をもって、苦難の時代にどう対峙したのか、作品にどのような「祈り」が描かれたのかを全6回で探訪します。

各回の講義予定

日程 講座内容
1 09/29 イーハトーブの基盤―宮沢賢治の生涯の「光と影」 第1回は、宮沢賢治(1896-1933)の生涯の全体像を俯瞰します。盛岡高等農林学校での最先端の科学(地質学・農学)との出会い、その後の熱心な宗教的活動を確認します。そのうえで大正デモクラシーの空気の中で、彼がなぜ独自の理想郷「イーハトーブ」を構想したのか、また、せねばならなかったのか、その生涯の「光と影」と、講座全体を貫く「祈り」の源泉を紐解きます。
2 10/06 「有機交流電燈」と心象スケッチ―『春と修羅』と近代詩の革新 賢治は自らの作品を「詩」ではなく「心象スケッチ」と呼びました。本回では、生前唯一刊行された詩集『春と修羅』の「序」および表題作「春と修羅」を中心に読み解きます。萩原朔太郎や高村光太郎といった同時代の詩人たちが「個の苦悩」を近代詩に昇華させたのに対し、賢治は「わたくしといふ現象は/仮定された有機交流電燈の/ひとつの青い照明です」と述べ、自己を宇宙的な時間の中に位置づけました。大正モダニズムと仏教的世界観が融合した、先鋭的な表現の試みに迫ります。
3 10/20 修羅と挽歌―妹トシの死と「心象スケッチ」の深化 賢治の文学、人生において、妹・トシの死は重要な転換点となりました。「永訣の朝」「松の針」「無声慟哭」といったトシの死をめぐる一連の心象スケッチを精読します。激しい喪失の痛み(影)の中から、いかにして「おまへとみんなとに聖い資糧をもたらすやうに」(「永訣の朝」)という普遍的な祈り(光)へと向かったのか、または、向かい得なかったのか。「春と修羅 第二集・第三集」へと続く、賢治の精神の歩みと、言葉による鎮魂の試みを辿ります。
4 10/27 都会の傲慢への毒とユーモア―『注文の多い料理店』の文明批評 生前刊行された唯一の童話集『注文の多い料理店』。その有名な「序」には「これらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまひ、あなたのすきとほつたほんたうのたべものになることを、どんなにねがふかわかりません」とあります。具体的な作品には、同時代の戦争の表現や、成金、都市化に対する批判など多くのものが入っています。表題作に登場する「二人の若い紳士」の滑稽な姿を通じ、大正期に急速に進んだ都市化、西洋化、そして自然を「消費」し支配しようとする人間の傲慢さを、どのように風刺したのか。一方で山猫たちはどのように描かれているのか。文明批評として読み直します。
5 11/17 資本と労働、科学技術の使用の寓話 ―『オツベルと象』が照らす大正社会の影 昭和初期、日本社会には小作争議や労働運動の嵐が吹き荒れていました。童話「オツベルと象」は、「オツベルときたら大したもんだ」という軽妙な語り口で始まりますが、その実態は資本家による労働搾取と、抑圧された白象、仲間の象による破壊の物語です。ここには様々な同時代的要素が含まれています。まず賢治自身が直面していた大地主・資本家層への違和感と、農民への同情が背景にあります。また、作品中の最先端の農業器械をめぐる白象とオツベルの差異も気になります。さらに、物語の結末は単純な勧善懲悪で終わることを拒否しています。同時代の社会問題と科学技術の側面から読み解きます。
6 11/24 冷害の東北と祈り―『グスコーブドリの伝記』と農業思想 最終回は、賢治が昭和初期に取り組んだ羅須地人協会での実践と、彼の理想の集大成とも言える「グスコーブドリの伝記」を取り上げます。大正・昭和初期の東北を襲った凶作と冷害。農業をめぐる新しい技術の側面から、登場人物や主人公グスコーブドリの生き様を読み直してみたいと思います。宮沢賢治作品が未来へ託した「祈り」の行方を、受講生の皆様と共に考えます。

ご受講に際して(持物、注意事項)

◆休講が発生した場合の補講日は12月1日を予定しています。

講師紹介

大島 丈志
文教大学教授
東京都に生まれる。千葉大学大学院社会文化科学研究科博士課程修了。博士(文学)。現在、文教大学教育学部教授。専攻、日本近現代文学。著書に『宮沢賢治の農業と文学』(単著 蒼丘書林、2013年7月、宮沢賢治賞奨励賞受賞)、『日本近代知識人が見た北京』(共著 三恵社、2020年7月)、『現代文化のなかの〈宮沢賢治〉』(単著 新典社 2023年10月)など。歴史・文化のなかから文学作品を読み解いています。宮沢賢治作品以外にも、大江健三郎や深沢七郎の作品、近代文学作品の現代における受容の研究も行っています。
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