ジャンル 世界を知る
中野校
歴史都市カイロの社会史―喧騒と成熟のイスラーム世界を読み解く
長谷部 史彦(慶應義塾大学教授)
| 曜日 | 金曜日 |
|---|---|
| 時間 | 13:10~14:40 |
| 日程 |
全8回
・10月02日 ~
12月04日 (日程詳細) 10/02, 10/09, 10/16, 10/23, 10/30, 11/13, 11/27, 12/04 |
| コード | 330321 |
| 定員 | 24名 |
| 単位数 | 1 |
| 会員価格 | 受講料 ¥ 23,760 |
| ビジター価格 | 受講料 ¥ 27,324 |
目標
・イスラーム世界を歴史的に捉える力を身につける。
・アラブ地域の都市の伝統社会についての知識を広げる。
・イスラーム文明の都市的な性格に関する理解を深める。
講義概要
大河ナイルに育まれたカイロは、アラブ世界とアフリカ大陸で最大の人口を誇り、イスタンブルと並んで中東を代表する世界都市です。カイロの歴史を知ることは、イスラーム世界史の理解に不可欠と言えます。本講義では、7世紀のアラブ・イスラームの大征服から18世紀末のナポレオンのエジプト征服までの歴史都市カイロに照準を合わせ、都市社会史の視座から解説します。まず創設から現代に至る都市カイロの成長と変容を時間軸にそって概観し、続いて「テーマ史」的に掘り下げます。具体的には、イスラームの高等教育と宗教活動、国際商業と市場、オスマン帝国の市民が残した歴史書、巡礼と移動、多宗派/民族の共存共生などの問題を論じます。
各回の講義予定
| 回 | 日程 | 講座内容 | |
|---|---|---|---|
| 1 | 10/02 | カイロ史概説1:軍営都市フスタートと宮廷都市カターイウ | 最初に、イスラーム世界、アラブ地域(アラビア語圏)、ナイル川とエジプトの中にカイロという都市を位置づけます。続いて、7世紀のアラブ・イスラームの大征服時代に新設され、カイロの基になった軍営都市のフスタート(オールド・カイロ)について詳しく説明します。さらに、その北東への市域拡大の端緒となった、アッバース朝の行政都市アスカル(750年造営)とトゥールーン朝(868-905)の宮廷都市カターイウについて解説します。 |
| 2 | 10/09 | カイロ史概説2:ファーティマ朝期からマムルーク朝期まで | イフリーキヤ(現在のチュニジアとその周辺)に興ったシーア派の一分派イスマーイール派を奉じるファーティマ朝の西遷と城郭都市カーヒラの建設(969年)について述べ、「聖なる君主の聖なる都市」としてのその特殊な性格について論じます。また、この時代に国際商業都市として繁栄を謳歌したフスタートについて説明します。このファーティマ朝を倒し、スンナ派のアイユーブ朝を建てた十字軍戦の英雄王サラディンがカーヒラとフスタートを囲う市壁と王城の建設に着手し、アイユーブ朝期にカーヒラとフスタートの一体化(大カイロの形成)が始まります。続くマムルーク朝(1250-1517)の首都としての隆盛についても詳しく論じます。 |
| 3 | 10/16 | カイロ史概説3:オスマン帝国期・フランス占領期と近現代の変貌 | オスマン帝国期(1517-1798)にエジプト州の州都カイロの都市空間はさらに拡充し、都市景観の「オスマン化」が進みます。コーヒー交易の一大拠点として殷賑を極め、社会的成熟を深める近世カイロの発展について考察します。そして、ナポレオン率いるフランス軍による占領統治期(1798-1801)の特徴について論じたうえで、「東洋のベルギー」を目指した副王イスマーイールの時代(1863-1879)を中心に、ムハンマド・アリー朝(1805-1953)支配下における都市空間・社会の欧化の諸相を検討します。さらに、19世紀末から現在に至る都市カイロの巨大化についても概観します。 |
| 4 | 10/23 | 学術・宗教都市としてのカイロ | マムルーク朝期・オスマン帝国期(13〜18世紀)のカイロは、150を超えるマドラサ(学院)が林立するイスラーム世界随一の学術都市でした。こうした高等教育施設や初等学校(マクタブ)の実態を明らかにし、それらを経済的に支えた慈善システムであるワクフ(イスラーム的寄進)について詳解します。また、オスマン帝国期に急成長し、イスラーム世界随一の高等教育施設となったアズハル・モスクについても説明します。そして、前近代のカイロで活躍した知識人の一例として、現在でもアラブ地域の書店でその著書が多く売られている博覧強記の学者スユーティー(1505没)を取り上げ、その生涯と活動を紹介します。さらに、高等教育を修めたウラマー(学者たち)が運営するイスラーム法廷(マフマカ)が社会の中で担った役割についても考察します。 |
| 5 | 10/30 | 国際商業都市としてのカイロ | マムルーク朝・オスマン帝国期のカイロは、インド洋経済圏と地中海経済圏を結ぶ紅海経由の国際商業ルートにおける最重要の商業都市として栄え、そこには小売店舗の集合体であるスークと遠隔地交易の拠点である商館(ウィカーラ)がひしめき合うように立ち並んでいました。業種別に編成された香料薬種、織物、貴金属など各種のスークについて概観したうえで、取引所・倉庫・宿泊所・オフィスなどの諸機能を兼ね備えた中庭形式の多層建築である商館に注目し、いくつかの例を解説しながら、その具体像を明らかにします。また、「ハワージャー」の称号を帯びた、オスマン帝国期カイロの豪商たちの実像にも迫ります。 |
| 6 | 11/13 | 河港の計量人が見た近世のカイロ社会 | カイロの主要な河港であるブーラーク港で育ち、計量人として働いて生計を立てた、イブン・アジャミーという無名の市民が著した歴史書『マバーヒジュ』を手がかりに、近世カイロ社会の諸側面について考察します。この市民歴史家はイスラーム諸学の高等教育を受けましたが、学者にはならず、同職組合に属して商品の計量業務に日々従事しながら、カイロの様々な出来事、人物伝、伝聞情報、自らの活動や経験などを年代記の形式で記述しました。17世紀のカイロで書かれたこの大部な歴史書の概要と特徴を明らかにしたうえで、膨大なその都市情報の中から、ペスト禍などの社会危機と祈願式、食糧騒動と石鹸騒動などのテーマを取り上げて分析します。また、当時の読書文化やリテラシーなど都市の文字文化についても論じます。 |
| 7 | 11/27 | 巡礼路都市としてのカイロ | 20世紀に空路の移動手段が発達するまで、カイロはメッカ巡礼の中継地としてアフリカ大陸で枢要な位置を占め、公式の巡礼キャラバンが組織される巡礼路都市でした。14世紀の世界旅行家として名高いイブン・バットゥータのカイロ来訪の記述を糸口に、イスラームの両聖地(メッカとメディナ)巡礼の一大拠点としてのカイロについて多面的に検討します。また、カイロを治めたマムルーク朝やオスマン帝国が外来の巡礼者たちをどのように処遇したのかについても考察します。また、旅人に対する都市社会のイスラーム的慈善活動の諸相について説明します。さらに、マムルーク朝期以降に活性化した、カイロの様々な聖者の墓に対する参詣行為についても論じます。 |
| 8 | 12/04 | 多元共存のカイロ社会 | 中世・近世のカイロでは、上・下エジプトからの来住のみならず、中東諸地域やアフリカからの多様な人々の流入と定着も続きました。こうした外来者たちが織り成す諸コミュニティーのうち、とりわけ存在感を示したマグリブ人たちとトルコ人たちをまず考察の対象とします。また、カイロに住むサハラ以南アフリカ出身者とその実態にも注目し、「アフリカ都市としてのカイロ」についても論じます。最後に、マイノリティーであったユダヤ教徒やコプト教会キリスト教徒の社会的実態も明らかにし、時にトラブルがありながらも、日常的に共存共生が保たれていた巨大都市の社会の特質について考察します。 |
講師紹介
- 長谷部 史彦
- 慶應義塾大学教授
- 専門分野は中世・近世アラブ社会史、中東都市史。2008年より慶應義塾大学文学部東洋史学専攻教授。ナッリーノ記念オリエント研究所(ローマ)訪問研究員、国際日本文化研究センター共同研究員、アレクサンドリア大学ダマンフール校訪問教授等も歴任。近年はエジプト・イタリア・チュニジアを繋ぐ地中海交流史も構想している。単著に『オスマン帝国治下のアラブ社会』(山川出版社)、編著に『ナイル・デルタの環境と文明Ⅰ・Ⅱ』(早稲田大学イスラーム地域研究機構)、『地中海世界の旅人』(慶應義塾大学出版会)がある。




