ジャンル 現代社会と科学
早稲田校
食料と食と味覚を科学する 気候変動と食料、音楽家の食事、食材と味覚の発展
川幡 穂高(早稲田大学客員教授、東京大学名誉教授)
| 曜日 | 水曜日 |
|---|---|
| 時間 | 10:40~12:10 |
| 日程 |
全7回
・07月01日 ~
08月26日 (日程詳細) 07/01, 07/08, 07/15, 07/22, 07/29, 08/05, 08/26 |
| コード | 120730 |
| 定員 | 30名 |
| 単位数 | 1 |
| 会員価格 | 受講料 ¥ 20,790 |
| ビジター価格 | 受講料 ¥ 23,908 |
目標
・音楽家の食事を通じ、現在の食卓で主要となった食材のルーツを探る。
・地球表層の物質循環を基礎に食料問題を考える。
・地球表層のエネルギー循環を基礎に食料問題を考える。
・将来の気候変動が食料生産に与える影響を考える。
・食材の化学組成などをもとに味覚を考える。
講義概要
食物に関係したホモ・サピエンスの特徴は、高いレベルの雑食性にある。これはヒトの脳の進化にも深く関わってきた。食物は、エネルギー源や成長・健康維持のための栄養素となる。有用な植物を栽培する農業や調理は人類の食文化・食の技術を育ててきた。講義は食物に関するトリビア「音楽家と食事」から始まる。食料問題、食と味覚をエネルギー・物質循環、化学組成・反応などから科学的に考える。「日本の低い食料自給率」「全球的な食料の生産余力」「食料生産を促進する肥料」を、環境科学の側面から、気候変動の影響もあわせて考える。「味覚」「香り」を食物の化学的性質から捉え、最後に「穀物」「なじみ深い野菜」のトピックスを扱う。
各回の講義予定
| 回 | 日程 | 講座内容 | |
|---|---|---|---|
| 1 | 07/01 | 音楽家の食事 | モーツァルトは、岩塩が近くで採れたザルツブルクで誕生し、イタリアで珍しかったスイカを食べた。彼の妻の逸話によると「夫よりベートーベンの方がグルメだった」。ベートーベンの故郷ボンでは、低層階級の常食としてジャガイモの栽培が定着しつつあった。ベートーベンを慕ったシューベルトは、人気が出てからはパプリカや牛肉を煮込んだグラーシュを好んだ。病弱だったショパンは、あっさりした鶏肉が好物で、消化の良い白身の魚を使ったポトフを好んだ。ショパンが最も愛したオペラ作曲家はロッシーニで、彼は引退後、味を追求し、フォアグラとトリュフをあわせるステーキ料理を考案した。音楽の都「ウィーン」にはカフェ文化が花ひらいた。 |
| 2 | 07/08 | 日本における低いカロリーベースの総合食料自給率 | 食料自給率とは、一つの国で消費された食料のうち、その国で生産されたものがどれくらいあるかを表す指標である。最も一般的なのが総合食料自給率で、日本では金額ベースで計算すると61%、カロリーベースだと38%となる。日本は先進国のなかでも最低水準にある。その原因とされるのが戦後の食生活の変化で、米の消費が減少し畜産物や油脂類の消費が増加した。日本の低いカロリーベースの食料自給率は、食料安全保障の上から問題とされる。エネルギーなどが途絶えた場合に、日本列島で支えることができる最低の自給率をまず考える。 |
| 3 | 07/15 | 世界的レベルでの食料の生産余力 | 1798年、マルサスは「食糧生産は線形関数的にしか増大しないが、人口は指数関数的に増大するので、いつか人口増加は食糧生産を追い越す」「貧困問題は自然法則として、人口増加圧力により不可避的に発生」と主張した。これに対し、リカードは「経済発展が進むと食料需要が増加し、痩せた農地での耕作を拡大させて食料価格の高騰を招く」「すると、賃金上昇、企業利潤率の低下が起こり、経済発展ができなくなる」。両者の主張は先進国では外れた。品種改良や化学肥料・農薬の多投などで食料生産が大幅に増大し、生活水準の向上により出生率も低下した。地球的レベルでの食料の生産余力について考える。 |
| 4 | 07/22 | 食料生産を増強させた肥料の主成分である窒素・リン・カリウムの地球表層の環境内部での循環 | 「緑の革命」は開発途上国での出来事と思いがちであるが、実際には、むしろ先進国において著しい成果を挙げてきた。これは、高収量品種の潜在的能力の発揮が鍵を担ってきたが、必要な量の肥料投入と水供給(灌漑設備)が備わっていることが前提であった。農業では、収穫に伴い農地から農産物などに含まれる無機物が持ち出される。これにより、収穫を繰り返すと植物の生育に必要な無機物が農地に欠乏する。それを補うのが肥料(主に窒素・リン・カリウム)である。窒素肥料は、ハーバー・ボッシュ法が開発されたことで、世界の人口を支えている。この方法は「空気からパンを作る」と比喩される。ただし、十分なエネルギーが必要である。 |
| 5 | 07/29 | 味覚は栄養を感じとるセンサー | 生命維持に不可欠な栄養素の存在を探知するため、甘味は糖質、うま味はタンパク質、塩味はミネラルに対応するよう、人は味覚を発達させ、必要な栄養を効率的に摂取してきた。一方、危険なものの摂取を、摂取の段階で拒否するため、体は酸味(腐敗物)と苦味(毒物)を備えてきたといわれている。辛味は味蕾では探知できないので「味」ではなく、「痛み」として認識される。味は舌にある味蕾で感知されるが、私たちが味覚と呼んでいるものには、味だけでなく香り(匂い)も重要な要素として含まれる。最終的に私たちが「美味しいとの認識」に至るのは、脳の働きの結果で、舌のみで味わっているわけではない。 |
| 6 | 08/05 | 味の5要素である甘味、塩味、酸味、苦味、うまみ | うまみ(グルタミン酸、イノシン酸など)は、日本人によって発見された。体を作るタンパク質は、500種類以上が知られるアミノ酸から構成される。この中で9種類の必須アミノ酸は体内で合成できず、食事から摂取される必要がある。グルタミン酸は非必須であるものの、アミノ酸の中で最も含有量が多く(動物性たんぱく質では約11〜22%)、グルタミン酸経由で合成されるアミノ酸も多いので、とても重要なアミノ酸である。日本料理の代表である懐石料理の華である「椀盛」のすまし汁を精密化学分析すると、非常に純粋なアミノ酸組成を示す。これは、フランス料理・中華料理のブイヨンの組成と大きく異なり、対極の特徴を有している。 |
| 7 | 08/26 | 食糧の発展 | 「食料」は食べ物全般、「食糧」は米や麦などの穀物を中心とした主食を指すのが一般的である。穀物は、イネ科の米、小麦、トウモロコシなどを指し、でんぷんを豊富に含む植物の種子の総称となる。マメ科の大豆、タデ科のソバなども穀物に分類されることがある。生産量の多いものから並べると、トウモロコシ、小麦、コメ、大豆、ソバの順となる。世界の古代文明、エジプト、メソポタミア、黄河文明は小麦などを、長江文明はコメを、一方、メキシコ文明はトウモロコシなどを基盤として成立した。芋は高いカロリーがあるものの、これを基礎に発達した文明はほとんどなかった。上記の穀物には、栄養素や保存性が優れたという特徴がある。 |
ご受講に際して(持物、注意事項)
◆気候・環境、化学に関する予備知識がなくても受講可能です。
講師紹介
- 川幡 穂高
- 早稲田大学客員教授、東京大学名誉教授
- 横浜市生まれ。博士(理学、東京大学) 。専門分野は、現代の地球環境・気候学、古環境学・古気候学。日本地球化学会および日本地球惑星科学連合元会長およびフェロー、欧州・米国の地球化学連合フェロー、早稲田大学や東京大学等で地球惑星科学などの授業を担当。専門は、生物地球化学をベースとした現代と過去の物質循環研究、現代の炭素循環に関する知見を過去に応用して古気候・古環境学の解析を行う一方、これらを統合して過去から未来への環境変遷の解析を行う。古気候学、人類学、考古学、歴史学を駆使した「気候変動と日本人20万年史」(岩波書店)がある。




