ジャンル 人間の探求

中野校

エルサレムと一神教の世界宗教史

  • 秋講座

市川 裕(東京大学名誉教授)

曜日 火曜日
時間 13:10~14:40
日程 全8回 ・09月30日 ~ 11月18日
(日程詳細)
09/30, 10/07, 10/14, 10/21, 10/28, 11/04, 11/11, 11/18
コード 330518
定員 24名
単位数 1
会員価格 受講料 ¥ 23,760
ビジター価格 受講料 ¥ 27,324

目標

人類の歴史を振り返ってみると、現代に近づくにつれて、一神教が世界全体に波及していく様子が際立っているように見えます。一神教の歴史全体を視野に入れてみると、エルサレムはそのすべての時代とつながっていることがわかります。では、世界で起こった重大な出来事は、もしかしたらエルサレムにも大きな影響を及ぼしていないか。そこから、次の2つの問いを考えてみました。
1.エルサレムという名は、平和の都市、平安京という意味ですが、そこはどのように世界の重大事件とつながって、どういう平和がもたらされているか。
2.エルサレムは3つの一神教にとってそれぞれ理想郷のイメージを代表するものとなっているのか。

講義概要

エルサレムは、中世ヨーロッパの人々にとって、世界の中心と目されていましたが、確かに、それより以前から、東西文明が交錯する境界線上に位置して、文明の興亡をまともに経験した稀な都市であることがわかります。それを具体的に、古代から大帝国、大文明の出会う場として、文化のせめぎ合い、相互の影響、その化学反応の様子を追っていきます。

各回の講義予定

日程 講座内容
1 09/30 概説 及び 大帝国興亡の中の属州暮らし アケメネス朝ペルシアからアレクサンドロスの東方遠征を経て、エルサレムはバビロン捕囚から帰還したユダヤの民の属州の首都として、どこかひっそりと暮らしています。しかし、精神の活動は活発で、この間にヘブライ語聖書が編纂され、ギリシア語へも翻訳されます。
2 10/07 ユダヤ独立国家とユダイズム ヘレニズムの宗教を強制するセレウコス王の勅令で殉教者が続出したのを機に、ハスモン家率いるユダヤ反乱軍が勝利して大祭司とユダヤの民の共和国を建設。ユダイズムを自覚した彼らは、その後国土回復運動を国是として100年後には聖書が描く約束の地の領土を回復したかに見えた。
3 10/14 ローマ帝国直接統治から滅亡へ:都市の変貌 ローマはアウグストゥス時代にユダヤを直接支配下に置き、ユダヤ人の反抗的態度に抑圧が昂じて、反乱者の処刑、ついにはユダヤとの全面戦争に突入。反乱の拠り所、エルサレム神殿は破壊され、再建をもくろんだバルコフバの反乱は鎮圧され、エルサレムはローマの植民市へと変貌し、ユダヤの地名は消され、シリア・パレスチナに改名された。
4 10/21 キリスト教の聖地誕生 ユダヤ人を排除した新たなローマ植民市、コロニア・アエリア・カピトリナはユピテル神殿を祭るローマ都市となっていたが、ローマ帝国自体がキリスト教を公認、ついには国教化するに及んで、イエス・キリスト復活の地はヒエロソリュマとして再びエルサレムの名が復活し、パレスチナはキリスト教の聖地として読み替えられていく。
5 10/28 イスラムの聖地への変貌 4世紀にキリスト教の聖地となったエルサレムは、しかし、7世紀にはアラビア半島から起こった第3の一神教イスラム教の軍隊によって征服される。それだけでなく、一神教の伝統に立脚して、預言者ムハンマドにちなんで、神殿の丘の「聖なる岩」に壮麗な岩のドームが建設され、さらにアクサモスクが建設され、イスラム第3の聖地が誕生した。
6 11/04 イスラム治下の三教共存 11世紀には、力をつけた西欧のカトリック文明から十字軍と称する聖地巡礼隊が数度にわたって派遣され、12世紀に100年間キリスト教国家が出現するが、その後、サラフ・アルデイーンにより撃退され、以後、イスラムの庇護民支配の中で、エルサレムは3つの一神教の共存時代が長く続く。
7 11/11 帝国主義時代の列強進出 18世紀末、オスマン帝国の衰退に乗じて、ナポレオンが眠れる中東エジプトへの遠征を敢行して、中東に近代が到来。以後の100年間に、列強による聖地争奪戦ならぬコンスル設置競争と教会建設ラッシュ、病院・学校建設ラッシュが繰り広げられ、都市の様相は一変し、ついにWWIでオスマン帝国の崩壊へと続く。
8 11/18 国民国家独立期の葛藤 20世紀の聖地エルサレムには、新たな世俗時代が到来した。領土、政府、軍隊、一定の人口、経済発展を伴う主権国家の建設が世界の趨勢となり、かつてのイスラム支配地域に西欧発祥の新たな国民国家の政治理念が浸透し始める。帝政ロシア出身のユダヤ人によりシオニズムの国家建設運動が展開し、エルサレムはその活動のシンボル的地位を果たすことになる。

講師紹介

市川 裕
東京大学名誉教授
法学を学んだ後、一生の仕事として聖書研究を志し宗教学の大学院で旧約聖書を学ぶが、イエス時代のユダヤ教に強く惹かれ、ヘブライ大学に留学し律法研究に取り組む。現地のシナゴーグで1年間毎朝の礼拝に出て感銘を受ける。著書に『ユダヤ教の精神構造』、『ユダヤ的叡智の系譜』(ともに東京大学出版会)、『ユダヤ人とユダヤ教』(岩波新書)など。他に、神話学者の松村一男氏と監訳したJ・リュプケ著『パンテオン―新たな古代ローマ宗教史』東京大学出版会2024、日本ユダヤ学会編・編集代表市川裕『ユダヤ文化事典』丸善出版2024。

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