ジャンル 芸術の世界
早稲田校
オリエンタリズム、ジャポニスムとオペラ サン=サーンスからマスネ、プッチーニを経てジョン・アダムズまで
長木 誠司(東京大学名誉教授)

曜日 | 金曜日 |
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時間 | 13:10~14:40 |
日程 |
全10回
・04月04日 ~
06月13日 (日程詳細) 04/04, 04/11, 04/18, 04/25, 05/09, 05/16, 05/23, 05/30, 06/06, 06/13 |
コード | 110451 |
定員 | 30名 |
単位数 | 2 |
会員価格 | 受講料 ¥ 29,700 |
ビジター価格 | 受講料 ¥ 34,155 |
目標
・オペラの歴史を概観するなかで、オリエンタルな人気作品を紹介する。
・西洋音楽史の中での19世紀から20世紀のオペラの位置を検証する。
・オペラの歴史的転換点となる有名な作品を分析する。
・日本や東洋がどのように西洋から見られていたかを、オペラを通して分析する。
講義概要
音楽、演劇、美術が一体となった総合芸術であるオペラは、西洋文化の一つの究極としての位置を誕生以来担ってきました。19世紀に西洋が帝国主義と植民地主義の下に東洋に進出すると、オペラも東洋、それもインドや中国、日本といった極東の風物を採り入れた人気作を産み出すようになります。サン=サーンスの「サムソンとデリラ」、マスネの「ラオールの王」からプッチーニの「蝶々夫人」のような傑作も登場するなかで、西洋はどのように東洋を見ていたのでしょうか?有名なオペラを観ながら、そこに描かれている世界を通して、東西関係を考えてみるのが本講座の主旨です。
各回の講義予定
回 | 日程 | 講座内容 | |
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1 | 04/04 | オペラのなかのオリエンタリズム | アヘン戦争や日本の開国などを経て顕著になってきた、オペラにおけるオリエンタリズムを、その初期作品を通して解説し、検討する。最初に扱うオペラはフランス人サン=サーンスの「黄色いお姫様」や「サムソンとデリラ」となる。 |
2 | 04/11 | イギリス、ヴィクトリア朝期の東洋趣味とジャポニスム | いち早く東洋に進出していたイギリスは、オペラにおいてもオリエンタルなものを採り入れたが、それは必ずしも東洋を理解するという趣旨のものではなく、むしろ自分たちのイギリスを見つめる眼を通してだった。ギルバートとサリヴァンの名コンビによる有名なミュージカル・プレイ「ミカド」は日本が舞台だが、そこにイギリス社会を見つめる視線を読み取る。 |
3 | 04/18 | オペラにおける「芸者」像 | 日本の「芸者」や「茶屋」は、1867年のパリ万博を通じてヨーロッパに知れ渡る。その経緯を追うなかから、オペラのなかでの「芸者」の描かれ方を検討する。採り上げるのはシドニー・ジョーンズの「ザ・ゲイシャ」というオペレッタ作品であるが、日本から渡った川上音二郎や貞奴たちの与えた影響も考えてみる。 |
4 | 04/25 | フランスのオリエンタリズム | 19世紀末のパリで大人気を採ったマスネも、人気の異国趣味を大いにオペラに採り入れた。ここでは「瞑想曲」で有名な人気作「タイス」と、インドを扱った「ラオールの王」を通して、パリにおけるオリエンタリズムを検討する。 |
5 | 05/09 | ロシア・オペラにおけるオリエント | 不凍港を求めて南下し、東洋にも進出したロシアも、オペラの題材を広いアジアの地域に求めた。ボロディンの「イーゴリ公」や、交響組曲「シェヘラザード」でも有名なリムスキイ=コルサコフの「見えない町キーテジ」は、その代表作である。これらを通して中央アジアがオペラに持つ意味を考えてみる。 |
6 | 05/16 | イタリア・ヴェリズモにおけるオリエンタリズム | 19世紀末のイタリアにおける写実主義、自然主義のオペラにおける現れがヴェリズモであったが、それは下層社会という「遠い」社会の風物を上流階級が楽しむという要素も多分に持っていた。当然、そこには遠い東洋の話も組みこまれる。「カヴァレリア・ルスティカーナ」によってヴェリズモ・オペラの代表者となったマスカーニが日本を題材に書いたオペラ「イリス」を観ながら、オリエントと象徴主義の接点をひもとく。 |
7 | 05/23 | 「蝶々夫人」とジャポニスム その1 | プッチーニの「蝶々夫人」はジャポニスム・オペラの代表だが、日本人にとっては違和感の残る作品であるとともに、日本人歌手が西洋に進出するきっかけを作った作品でもある。先立つメサジェのオペラ「お菊さん」との対比のなかで、原作となった小説をも参考にし、そこで描かれている日本を検討しながら、どのようにこの作品ができあがっていったのかを探る。 |
8 | 05/30 | 「蝶々夫人」とジャポニスム その2 | 日本のなかで「蝶々夫人」がどのように上演されてきたのかを探るなかで、日本にとってこの作品がどのような意味を担ってきたのかを検討する。また、これまでのいろいろな演出を紹介しながら、そこでの日本の描かれ方の変化を歴史的な展望のなかで問い直してみる。 |
9 | 06/06 | 「トゥーランドット」と沈みゆく中国 | 日露戦争勃発の9日後に初演された「蝶々夫人」では近代化の途上にあった日本を描いたプッチーニだが、中国に関しては滅びゆく大国のイメージでオペラを作曲した。「西」からの男性に「征服」される北京の王朝と王女、それはまさに「眠れる獅子」たる清国が西洋の侵略に悩める姿である。人気オペラのなかに時代の投影を感じながら、オペラが何を描いてきたのかを検討する。 |
10 | 06/13 | 20世紀のオリエンタリズム | 20世紀初頭に書かれたオルフの「ギセイ」は、オリエンタリズム・オペラのひとつの終着点であるが、それを超えて東洋は常にオペラの題材となってきた。ヴェトナム戦争中の1972年に実現したニクソン訪中を描く新たな「オリエンタリズム・オペラ」として、アダムズの「中国のニクソン」を採り上げながら講義を締めくくる。 |
ご受講に際して(持物、注意事項)
◆各回で扱う作品の梗概を事前にご確認いただけるとより理解が深まります。
講師紹介
- 長木 誠司
- 東京大学名誉教授
- 福岡生まれ。東京大学文学部美学藝術学科卒業後、東京藝術大学大学院博士課程修了。博士(音楽学)。1986-88年、ドイツ学術交流会(DAAD)の奨学生としてドイツのボンに留学。2005年度、文部科学省の派遣でベルリン自由大学客員研究員。2019年度、ベルリン芸術大学客員研究員。現代の音楽およびオペラを多方面より研究。東邦音楽大学・同短期大学助教授を経て、東京大学大学院総合文化研究科教授(表象文化論)。東京大学名誉教授。