ジャンル 現代社会と科学

中野校

新しい経済学入門

  • 夏講座

松原 隆一郎(放送大学教授)

曜日 月曜日
時間 10:40~12:10
日程 全8回 ・06月30日 ~ 09月01日
(日程詳細)
06/30, 07/07, 07/14, 07/28, 08/04, 08/18, 08/25, 09/01
コード 320701
定員 24名
単位数 1
会員価格 受講料 ¥ 23,760
ビジター価格 受講料 ¥ 27,324

目標

経済学につき何も知らない状態から理解する。

講義概要

あまたある経済学の入門書は、「物々交換」に始まって経済学を概説している。けれども人類学や民族学方面では、「悩ましいのはそのようなこと(注;物々交換からの貨幣の発生)が実際に興ったという証拠がないことであり、むしろそんなことが起こっていないことの方を膨大な量の証拠は示している」(D.グレーバー)と主張している。これは貨幣につき中央銀行紙幣ではなく、銀行信用を含む信用貨幣を中心に据えるべきことを意味している。また市場経済の外部には人間関係や自然生態系、学術を含む文化が存在し、内部と相互依存関係にある。そうした見取り図をもとに、現代の経済を理解するための要点を説明していく。

各回の講義予定

日程 講座内容
1 06/30 経済学は何を論じるのか 経済学は自然科学を模したものの、対象が「大きな社会」である場合、要因が多すぎて厳密な実験は困難になり、要因を減らす「モデル」を利用しても検証が可能なのは「小さな社会」に限られる。「大きな社会」について示されるのは人文学と同じく解釈図式に止まる。本講では、自然科学の方法は行動経済学に用いられるが、経済的な意味を担う領域は「解釈」によって定式化されてきたとみなして、経済についての新たな見取り図を提示する。
2 07/07 経済の黎明 市場経済とその外は境界で依存関係にある。太陽からの贈与である太陽光のエネルギーのもと、家族やコミュニティの「人間関係」、生態系という「自然」、協団や地域の「文化」、債権と負債からなる「金融」が、人間関係資本、自然資本、文化資本、金融資本を蓄積し、それら「共有資本」は労働や資源、情報・技術や信用を生み出し、生産要素として生産過程に投じられる。生産要素が持続的に生み出されるためには浪費しないための制約が必要である。ここで経済の内部と外部から構成される見取り図を示し、以降の各回でそれぞれが成立した経緯やその異議につき説明していく。
3 07/14 近代以前の市場経済-信用の芽生え 農業が余剰を生み出すことは、限界生産力の原理で説明され、余剰は蓄積され顔見知りの農民に信用で貸借された(「小さな社会」)。ここで商業が芽生えるが、その背景には土地により生態系が異なり農産物にも差異が存在したことがあり、商人は農産物を運び販売して利潤を得た。その際、顔見知りでない商人は貴金属で支払ったが、ヨーロッパ内で商業が集積されると「市」となり、固定的な商人は信用取引するようになり、債権と債務が蓄積し、定期市はその決済を行う国際金融市場を分離していく。
4 07/28 グローバル化する商業とものづくり 大航海時代のヨーロッパ経済は互いが顔見知りではない「大きな社会」に転換し始める。オランダの東インド会社は大洋の航海という危険に際し株式会社制度を導入、複数回の航海の通算で資本を継続した。またアムステルダム銀行は大商人による引受から口座振替を実現し、貿易決済の中心となった。綿織物(キャラコ)がイギリス東インド会社によってイギリスにもたらされるとイギリス本国の毛織物産業は壊滅の危機に瀕した。こうした貿易に規制をかけてもうけようとする重商主義に対し、A.スミスはものづくりへの資本投下が「市場価格」と「自然価格」の価格差に誘導されることを指摘した。
5 08/04 工業経済の模索 A.スミスは貿易への規制緩和を求めたが、現実にイギリスを覇権国にしたのは国際競争から保護された繊維産業に技術革新を導入した産業革命だった。F.リストはそこから途上国が発展するための条件をまとめ、幼稚産業の保護論を唱えた。また工業は有機的に自生する自然に比べて遙かに多様で、それに応じて個人の心中に「欲望」が生じると考えられ、消費者行動の理論が生まれた。口座振替が可能になったため、ロンドンでは銀行口座を用いた銀行融資が信用創造を生み出すようになる。しかし金融危機が頻発するようになり、イングランド銀行が中央銀行に昇格して金融政策を開始する。
6 08/18 工業経済の誕生と部分均衡分析 D.リカード以来、古典派の経済学者は資本家の取り分である利潤は長期的に低落すると予告したが、イギリスは世界の覇権国となっても19世紀いっぱい長期的に利潤や賃金の上昇を経験した。そうした趨勢を経済学で説明しようとしたのが新古典派で、A.マーシャルはスミスの資本投下の経済原理を、企業が需要と供給の価格差から利潤を最大化する意思決定として読み替えた。また需要と供給により経済全体の動向も分析した。ただし需要と供給が完全に独立するのは貨幣が保有されセイ法則が成り立たないケインズの考察を待つことになる。
7 08/25 社会主義の幻想と一般均衡分析 ワルラスはすべての財市場が互いに影響を及ぼし合しつつ需給を均衡させる経済のあり方を連立方程式で表し、「一般均衡分析」を体系化して、オークショナーが価格を上げ下げするという調整過程を構想した。新古典派経済学はそれを受け消費財市場、生産要素である労働市場、資本市場、土地市場、中間財市場のすべてで一般均衡が成り立つと想定し、そこでパレート最適が達成されていると主張した。けれどもこのモデルを現実に応用した社会主義計画経済では官僚がオークショナーの役割を務めたものの、成功を収められなかった。現実には価格差を見出したり設定するのは企業の役割である。
8 09/01 化石燃料が生み出した新たな社会経済 産業革命で蒸気機関が生産過程に取り入れられると、化石燃料に何百万年も蓄積されたエネルギーを解放する工業化に有機経済は圧倒されていく。ここで生じた変容につき説明する。第1に経営者が資本家を兼ねる無限責任が株式会社では有限責任とされた。第2に有機経済の製品が持っていた個別の異質性は工業的に均質な模造品に代替され莫大な利潤を生み、しかも輸送能力の高まりにより場所による価格の差異は消滅した。第3に規模の経済が生じる市場では独占が支配的となったが、赤字になる鉄道など公益性が高い場合は価格に規制が講じられ、公益性が低い場合には独占が部分的に禁止された。

ご受講に際して(持物、注意事項)

◆参考図書として『社会経済の基礎』(放送大学教育振興会)をお読みいただくとより理解が深まります。

講師紹介

松原 隆一郎
放送大学教授
1985年東京大学大学院経済学研究科単位取得退学。東京大学大学院総合文化研究科教授を経て、現在は同大名誉教授、放送大学教授。専攻は経済思想・社会経済学。主要著書に『経済政策』(放送大学教育振興会)、『ケインズとハイエク ― 貨幣と市場への問い』(講談社現代新書)などがある。
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