ジャンル 人間の探求

オンデマンド

【オンデマンド】正義の倫理とケアの倫理 私たちはなぜ助け合うべきか

  • 春講座

品川 哲彦(関西大学教授)

コード 910502
定員 −名
単位数
会員価格 受講料 ¥ 11,880
ビジター価格 受講料 ¥ 11,880

目標

・正義とは何か、倫理学におけるその位置づけの変遷を顧みる。
・福祉を組み入れた社会を構想するロールズの正義論を学ぶ。
・人間の傷つきやすさへの配慮に立脚するケアの倫理を学ぶ。

講義概要

弱者への援助はどの倫理理論も重視する規範のようにみえる。だが、そうではない。本講座では、まず、古代・中世・近代の倫理理論のいくつかを簡潔に紹介して、正義と善という概念を対比しつつ、弱者への援助が国家ないし(政治)社会の任務ではなかった事情を顧みる。ついで、弱者への援助が社会正義と呼ばれるようになった現代に、それを社会設計の最初から組み込む正義論を参照する。最後に、近現代のたがいに平等で自立した個人としての人間像と一体となった正義概念に異議を申し立て、誰もが他者から気遣われることを必要とする傷つきやすい存在だと指摘するケアの倫理の考え方を参照し、その意義を考察する。

各回の講義予定

講座内容
1 弱者への援助は少なくとも第一に重視される倫理規範ではなかった 弱者への援助は、一見、超歴史的に倫理的に推奨される規範のようにみえる。しかし、実際にはそうではなかった。まず、正義の概念を整理した最初の人ともいうべきアリストテレスの徳倫理学をみてみよう。次に、正義の次に親切を倫理規範に挙げたヘレニズム時代のキケロをみてみよう。さらにキリスト教を根底におく中世の哲学者トマス・アクィナスをみてみよう。
2 近代社会のはじまり――ロックの社会契約論と労働所有論 私たちはばらばらに生きていく危険性を察知して、自分たちの個人の力を差し出して国家ないし政治社会というしくみを創り出した。国家は私たちの醵出する税によって運営されるのだから、税の使途は国民の意向を反映しなくてはならない。そして、私たちは自分が働いて得た成果を自分のものにしてよい――現代の私たちが常識のように思っている(とはいえ、それが完全に現実化しているともいえないが)社会のあり方をイギリスの名誉革命やアメリカの独立戦争に多大な影響を与えたジョン・ロックの思想にみてみよう。
3 弱者への援助を当初から組み込んだ社会の設計 「最も不遇な人びとの自由の真価を最大化することこそが、社会正義の目的を明確に示してくれる」。1971年に公刊された『正義論』のなかで、ロールズは高らかにこう宣言している。同書は、最も恵まれない状況にあるひとを支えるセーフティ・ネットを当初から組み込んだ社会設計を、しかも人間の利己性を考えればあてにはできない善意によってではなく、私たちがまさに利己的だからこそ採択する論理を築き上げた。私たちはここに国家ないし政治社会の任務のなかに弱者への援助を数え入れる正義論をみることができる。
4 正義の倫理とケアの倫理――道徳性の発達心理学における論争 ことは道徳性の発達心理学という分野の内部で起きた。近代の正統的な倫理理論にフィットする、したがってまさに近代の人間像における「成熟」の過程を描き出したローレンス・コールバーグの発達理論にたいして、女性の心理学者キャロル・ギリガンはその理論では女性が不当に低く評価されるという異議を唱えた。論争は性差というよりも、むしろ文化の違いへ、したがって人間像の違いに、人間が作り出す社会のあり方の違いへと展開していく。
5 ケアの倫理の社会像 人間はだれしも他人に気づかわれる必要のある傷つきやすい存在だ――ケアの倫理のこの認識は、たがいに平等で(他人に依存しないという意味で)自立しており(自分のことは自分で決めるという意味で)自律している個人から成り立つ近代の社会像とは異なる社会像を描き出す。だれもが生まれてきた子どもであった。子育ては社会と無関係な自然界のできごとではなくて人間社会の存続に不可欠な行為である。ケアの倫理の描き出す社会像をみてみよう。
6 まとめ――倫理と法と政治と経済。つながらないようでつながっている これまでの5回の講義で論じてきた話題に補足すべきことがらを最後にとりあげたい。本講座は、学問区分でいえば、倫理学の議論を論じてきた。しかしながら、人間のあり方、人間同士の共存すなわち社会のあり方を論じる以上、そこには、最低限守るべきルールを定める法、法を制定するしくみである政治、人間の共存と互助を可能にするとともに人間にとっては生存を賭けた競争の場ともなりうる経済、それらと倫理とのあいだの、つながらないようでつながっている関わりについて最後に瞥見することにしたい。

ご受講に際して(持物、注意事項)

◆視聴期間は一般申込開始(2024/03/05)から学期終了翌月末(2024/07/31)までになります。一般申込開始(2024/03/05)以降はお申し込みいただけましたら視聴可能になります。
◆この講座は
 2023年度 秋期 「正義の倫理とケアの倫理」 (09/27〜11/08 水曜日、全6回)
 で開講した講座のアーカイブ講座になります。
◆途中映像音声の乱れるところがありますがご了承ください。
◆オンデマンド講座のため講義内容に関する質疑は受付けいたしかねます。あらかじめご了承お願いいたします。

講師紹介

品川 哲彦
関西大学教授
京都大学博士(文学)。現象学から研究を始め、大学院在学中に、当時、日本に急速に導入された応用倫理学の研究に関わり、その後、倫理学全般に研究を進めてきました。和歌山県立医科大学講師、広島大学助教授を経て現職。著書に『正義と境を接するもの――責任という原理とケアの倫理』(ナカニシヤ出版、2007年)、『倫理学の話』(同、2015年)、『倫理学入門――アリストテレスから生殖技術、AIまで』(中公新書、2020年)。近年の研究テーマの一つ、「より豊かな正義概念とより効率的なケア概念の構築」は、世界のさまざまな分野の研究を紹介するイギリスの雑誌Science Impactで2020年に紹介されました。
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