ジャンル 人間の探求

早稲田校

シニア世代のライフ・スタイルについて、〈規範的価値としての生きがいの視点〉から考察する

  • 秋講座

和田 修一(早稲田大学名誉教授)

曜日 木曜日
時間 10:40~12:10
日程 全10回 ・09月24日 ~ 12月03日
(日程詳細)
09/24, 10/01, 10/08, 10/15, 10/22, 10/29, 11/12, 11/19, 11/26, 12/03
コード 130534
定員 30名
単位数 2
会員価格 受講料 ¥ 29,700
ビジター価格 受講料 ¥ 34,155

目標

・わが国固有の価値観を表しているとされている「生きがい」について、歴史的並びに比較文化的に考察する
・「生きがい」という価値概念を用いて、わが国のシニアライフの在り方を社会学の視点から考察する
・これからのシニアライフの在り方について考える

講義概要

生きがい価値の議論においては、使命感あるいは役割期待といった内面価値に支えられた生活(人生)充足感が重要視されます。ただし一方では、人生における個人的な欲求充足の追求もまた納得のいくライフ・スタイルの形成の上で不可欠な要因であることも否定できません。「生きがい価値観」形成に伴うその価値的二律背反性は個人の価値意識形成の中でどのようにして調和されるのでしょうか?こうした価値的ジレンマが先鋭に表れるのは中壮年期から高齢期に移行するときだと思われますが、その際に生じる生活適応問題への理解を「生きがいの社会学」の枠組みを用いて深めていきたいと思います。

各回の講義予定

日程 講座内容
1 09/24 「生きがい」という価値意識 生きがいの対象選択に関して一定の定型化されたパターンの見られることが、意識調査の結果から指摘されています。こうした傾向を生み出す背景には、人びとが個人の好みに合うような価値選択をする思考様式を有していることが考えられるでしょう。こうした個人的価値選択の様式が、どの様に形成され、どの程度の社会的妥当性を得たものであるかを改めて考えてみることもまた不可欠だと思われます。
2 10/01 わが国の歴史的・文化的文脈における「生きがい」という言葉の変化 「イキガイ」という言葉は、長い歴史をもった日本文化の中に根付いた言葉だといえるようです。日本人がどの歴史的時代から「生きてある甲斐」という価値的認識を「生きがい(ひ)」という単語で表すようになったのかは必ずしも明確ではないのですが、遅くとも『太平記』の中にはその用例が見られます。しかし、その語の使われ方を歴史的に見てみると、意外な歴史的事実が見出されるようです。そこで、「イキガイ」ということばに込められた日本人の価値意識のたどった歴史的経緯を検討してみたいと思います。
3 10/08 「生きがい」:という意味の二重性の受け取り方 「生きがい」という語の指し示す価値観の変化をみるとき、「生きがい」が規範的な社会通念を指示する言葉から個人的な価値(観)を指示する言葉へと変化してきたのではないかという解釈に気づきます。その変化は「ひとつの共通的内容を持った社会的役割内容」を表す言葉から、「共通価値の下での個人差を許容する価値対象」を表す言葉への変化です。この変化は、ある意味、わが国社会における個人主義化という変化だといっても良いでしょう。今日のわれわれとしては、こうした変化をどのように受け止めるべきでしょうか?
4 10/15 社会的規範としての「生きがい」 「生きがい」をひとつの社会的規範として受け入れることは妥当でしょうか。「生きがい感」を一種の「使命感」と同一視する神谷美恵子の主張が著名です。勿論その議論は生きがい解釈の論として魅力あるものであると思われますが、一方で使命感という語が宗教的な色彩の強いものであり、したがって「生きがい感」という世俗的な規範の議論としては、いささか極端に過ぎるように思われます。ここではより通俗的な庶民生活から発生した社会規範と関連付けながら、その対比をもとに議論を進めたいと思います。
5 10/22 「生きる甲斐」と「生きる価値」 ここでいう価値問題は、実は、かつて盛んに議論された「ワーク・ライフ・バランス」というテーマと軌を一にする事柄なのです。つまり、いずれもが公益の遂行に関わる価値意識と個人的私益の充足意識の間での価値的調和が中核的問題なのです。別の視点から言えば、この議論の背景には、組織的な目的達成を一義とする功利主義的な価値と心理的融和性を一義とするコミュニティ主義の両立性という問題が横たわっているように思われます。世代間共生の議論は、こうした対立的価値の融和論から始まります。
6 10/29 シニアライフを取り巻く社会環境とそれが含むジレンマ性について 「生きがい」という認識様式と心理的実感とは、特定の価値判断から形成された社会イメージや社会関係の形態特性と密接に関連している事柄です。そして、いわゆる「年金世代」にとっては、そのライフ・ステージの特性が中壮年期の社会環境の下でのステージとは大きく異なる社会環境であることに気づいているずです。そこで、シニア世代の日常生活において営まれる対人関係の形成ではどのような点に特に留意されるべきか考えてみます。
7 11/12 「生きる価値」と「価値ある」それぞれの価値特性の違いにある文化の違い 円満な社会関係を築こうと企図するとき、一方的に相手に頼り切るのではなく「頼り、頼られる」互酬的関係を形成することが不可欠だとする共通認識があります。透明性の高い等価交換的経済合理性で処理される傾向がある中壮年期の日常生活では互酬性が特別に強調されることはあまりないのですが、シニア・ライフにおいては互酬性の欠落が問題視されることが往々にしてあるようです。そこで、互酬性意識の社会的重要性について考えてみましょう。
8 11/19 「社会的資本」としての生きがい感 互酬性意識から生み出される安定的利害関係を「社会的資本関係」という名称で概念化する考え方があります。この概念のポイントは、その表現にある如く、「社会関係」と「資本」というおおよそ異質な要素を関連付けて考察する点に求められます。この視点を応用してシニアにおける互酬的社会的役割関係の形成について考えることによって、老後生活におけるコミュニティ的共同関係がどのような経緯で生まれるのかについて明らかにしてみたいと思います。
9 11/26 「生きてある甲斐」と「生きがい」 「互酬性」という社会規範は、コミュニティ生活において対人関係を形成する際の最も基本的な規範だといってよいでしょう。しかし一方で、市場的社会における経済原理から遠ざかることを余儀なくされているシニアの場合には、自己にとっての経済価値の獲得とは異なった価値基準の方が生きがい価値により強く影響を及ぼすこともあるのではないでしょうか。そのことを理解するためには、生きがいという語句の意味を「生きてあることの甲斐(効験・効果)」という価値基準であるとした日本的価値特性、すなわち日常的生活意識を支える価値観から社会的規範価値を導いていくという価値観の特性を理解する必要があるように思われるのです。
10 12/03 本講義のまとめ 私たちの生活を取り巻く現実では、価値観の個人差が往々にして対立や葛藤を招来したり、あるいはホンネを押し殺してタテマエを通さざるをえないことも否定できません。心の世界の個性を尊重したうえで、少子高齢化の下で生じがちな世代間の葛藤や利害対立を鎮める、世代間の格差を超えた「共通価値」を想定することは可能でしょうか?本講義では、この議論をシニア世代の「生きがい」の視点からアプローチすることにチャレンジしてみました。最後に、受講者の皆さんの質問・疑問点やご意見を拝聴したいと思います。

講師紹介

和田 修一
早稲田大学名誉教授
早稲田大学文学部哲学科(社会学専修)卒業。専門分野は社会学(社会老年学、近代社会論)。著書に『中高年齢層の職業と生活 ― 定年退職を中心として』(東京大学出版会、1982年、青井和夫との共編著)、『生きがいの社会学 ― 高齢社会における幸福とは何か』(弘文堂、2001年、高橋勇悦との共編著)など。
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