ジャンル 現代社会と科学

中野校

資本主義は生き残れるのか―所有の概念を再構築する

  • 春講座

水野 和夫(元法政大学教授)

曜日 月曜日
時間 10:40~12:10
日程 全10回 ・04月06日 ~ 06月15日
(日程詳細)
04/06, 04/13, 04/20, 04/27, 05/11, 05/18, 05/25, 06/01, 06/08, 06/15
コード 310704
定員 24名
単位数 2
会員価格 受講料 ¥ 29,700
ビジター価格 受講料 ¥ 34,155

講義概要

資本主義は20世紀に多くの国民を豊かにした。しかし21世紀になるとビリオネアが富の独占を図り、貧富の差が拡大した。共産主義のソビエトが解体したあと資本主義の勝利だとぬか喜びしたものの、安全保障、移民、テロ、気候変動など様々な問題が噴出している。それに対して近代国家は有効な手立てを見出していない。近代資本主義と共産主義はフランス革命後のイデオロギー対立で生じ、どちらも最終的には自国民の「自由」を実現するためのシステムだった。ソビエトが解体したからといって資本主義が生き残れるという保証はない。資本主義と共産主義は自由を保証する所有の扱いが両極端だった。所有の概念をもう一度再構築する必要がある。

各回の講義予定

日程 講座内容
1 04/06 所有とは何か 貨幣経済のもとで自由を追求するには所有権の確立が不可欠だ。所有権の歴史をたどれば、人類史は自由獲得のための戦いだった。ジョン・ロック、1804年ナポレオン法典を経て近代所有権が確立されてきたのは、絶対君主の横暴から市民の自由な経済活動を守るためだった。ところが21世紀になってビリオネア(10億ドル長者)が数百年にわたって使い切れないほど膨大な資産を所有し、貧富の格差(二極化)がフランス革命前の状態に近づいてきた。近代社会が始まった頃の「使ってこそ所有ということに意味がある」といったラ・フォンテーヌの言葉を再確認する必要がある。
2 04/13 貨幣とは何か ヨーロッパでは都市化が13世紀に始まった。経済活動が広域化し貨幣需要が生まれたことで、資本となる貨幣が誕生した。その後、ローマカトリックの権威が低下していくと、16世紀初めには「貨幣はこの世において世俗の神である」(ドイツの市民詩人ハンス・ザックス)となった。1661年にストックホルム銀行が紙幣を発行し、信用創造が行われ、富の無限的な蓄積が可能となった。現在の資本主義の課題解決のためには、資本主義誕生時に遡ることが必要である。それができなければ、資本主義は生き残れない可能性が高い。
3 04/20 資本とは何か 12世紀までは貨幣は「石」であり、利息を取ることは禁止されていたが、13世紀初めに貨幣は「種子」となり、利子が容認された。この時点で貨幣は回転することで「資本」となった。13世紀にイタリアの神学者オリーヴィが13世紀の「資本論」を著し、そのなかで投資と利子という概念を発明し、利子を生む資本の追求が正当化された。資本の定義は200余りあるため、資本の定義を突き詰めても資本の本質は分からない。資本の機能から追求することで資本の本質を理解することができる。資本には二つの機能があり、ひとつは唯物論者の資本であり、もうひとつは資金主義者の資本である。前者はケインズで国民生活向上に貢献する。後者は新自由主義者やビリオネアの資本であり、資本増殖自体が目的となっている。
4 04/27 利子と利潤は何が違うのか 株式会社が経済活動の主流となるまで、利子は利潤を含んだ概念で利子には危険負担が含まれていた。19世紀に産業革命の効果が現れ鉄道と運河の時代となった。大量の資本が必要となり、確定利付きの利子と事後的にしか確定しない利潤率とに分離した。前者は預金者であり、後者は株主である。
アダム・スミスによれば、利潤率(ROE)は利子率の2倍までと『国富論』で述べていたが、21世紀になると、大企業のROEは10%超となったのに対して、利子率は1%台半ばである。スミスの時代、ヨーロッパ列強諸国は植民地主義で外国に巨額の投資をしており、現在と同じようなグローバル化の時代であった。現在の事態はスミスやケインズの理論では全く説明できず、「例外状態」が続いている。
5 05/11 現在財と将来財とは何か 人間が必要とする財・サービスは、現在財と将来財に分けることができる。人間はそれ以外の財を作ることはしない。現在財は現在時点で満足度を高めるものであって、現在のGDP統計では消費財に分類される。将来財とは将来時点で満足度を高めるものであって、設備投資や輸出、公共投資がそれにあたる。将来、より豊かな生活を望めば、現在財の生産を減らすことで、限られる資源を将来財の生産に充てる必要がある。現在の満足度を諦めなければならない。その犠牲の代償が利子・利潤であり、より多くの我慢をした場合には、高い利子・利潤率で報いられることになる。消費支出を抑え、我慢をしてきた結果が今の日本だ。
6 05/18 テクノロジーは進歩をもたらすのか "progress”は近代になってはじめて、時間の経過をいう意味をもち、「進歩」となった。それまでは、単なる空間の移動を表すにすぎなかった。時間は常に進むため、進歩は前進あるのみとなって、前年と同じであることは許されない。進歩は経済的には合理化を意味し、合理化を促進するのがテクノロジーである。
「宗教の魔術性は技術の魔術性へ転化した。かくて20世紀は技術の時代としてばかりでなく技術への宗教的信仰の時代として発足した」と20世紀初めのドイツの政治学者カール・シュミットは技術の本質を見抜いていた。多くの人は、テクノロジーが20世紀の問題を解決してくれると信じた。しかし、IT技術は開発者がその利益を独占することによって、経済格差が著しく広がった。戦後から1970年代半ばにかけて、格差が縮まったのは、政府がエジソンとフォードの発明の利益を国民に行きわたる政策をとったからだ。
7 05/25 国家は三大悪徳をいかにコントロールするか 神が追放され、かわって貨幣がその座に就いた。私的利益の追求は公共の利益につながるからという理由で容認されていった。その後、イタリアの哲学者ヴィーコは、貪欲(所有欲)、権力欲、名誉欲を放置すれば人類は滅びると予言した。それを防ぐ役割を国家に求めた。ところが1970年代後半から各国政府は新自由主義を採用し、市場を通じた富の追求(貪欲)を推奨した結果、格差が広がった。国民国家は移民問題、テロなど治安対策に追われ、民主主義も危機に瀕している。
8 06/01 新自由主義とグロリゼーションの狙いは何か 新自由主義の政策は資本の自由化、小さな政府、民営化であり、グローバリゼーションで一番重要なのは資本の自由化である。新自由主義の狙いは、ケインズ政策により地位が低下した経済エリートの復権にある。そのための手段がグローバリゼーションによる資本の自由化だった。詳細:新自由主義の政策は資本の自由化、小さな政府、民営化であり、グローバリゼーションで一番重要なのは資本の自由化である。新自由主義の狙いは、ケインズ政策により地位が低下した経済エリートの復権にある。そのための手段がグローバリゼーションによる資本の自由化だった。先進国が新自由主義的政策を採用した結果、テクノロジーは金融市場で活発な取引を促すために活用され、経済のシンボル化が進んだ。その象徴が21世紀にはいって急増する内部留保金(2024年度638兆円)で、いわゆる資金主義者の資本だ。一方、唯物論者の資本である有形固定資産は384兆円で、これだけあれば、600兆円にのぼる財・サービスを提供できる。資金主義者の資本は大幅に過剰となっている。
9 06/08 資本主義は生き残れるのか シュンペーターの『資本主義・社会主義・民主主義』(1942年)において、資本主義は社会主義に移行すると説いた。しかし、現実には社会主義が1991年ソビエト解体によって、先に消滅し、いまや世界中の多くの国は資本主義を採用している。シュンペーターが取り上げたこの三つはどれも「自由」実現のためのシステムだ。自由が実現できなければ、どんなシステムであっても正当性を失う。最も不自由な社会が社会主義だった。マルクス、ケインズ、ウェーバ―の資本主義に対する見解を参照しながら、資本主義の将来について考察する。
10 06/15 21世紀の課題はなにかー所有権の再構築 資本主義の問題は、所有の概念をどうとらえるかにかかっている。ナポレオン法典が私的所有権の不可侵性を認めたのは、ブルジョアが自由を求めて行う経済活動を絶対君主の横暴から守るためだった。しかし、21世紀になるとブルジョアの一部特権階級が絶対君主化している。スミスの「シンパシー」(共感)は新自由主義で無力だと判明したし、マルクスの所有権廃止は極端すぎた。まずは所有の概念を再構築、あるいは再解釈すべきだ。所有の概念を再定義するのに、ケインズが『わが孫たちの経済的可能性』(1931年)が参考になる。彼は「貨幣愛」に目が眩んだビリオネアに対する処方箋を書いている。

講師紹介

水野 和夫
元法政大学教授
愛知県生まれ。博士(経済学)。専門分野はマクロ経済学。三菱UFJモルガン・スタンレー証券(1980八千代証券入社-2010)、内閣府大臣官房審議官(2010)、内閣官房内閣審議(2011)、日本大学教授(2013/4-16/3)、法政大学教授(2016/4-24/3)。著書に『100年デフレ』(2003)、『終わりなき危機』(2011)、『資本主義の終焉と歴史の危機』(2014)、『次なる100年』(2022)、『世界経済史講義』(島田裕巳と共著、2024)、『シンボルエコノミー』(2024)などがある。

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