ジャンル 現代社会と科学
中野校
蒐集の歴史的視点から資本主義を考える 近代の例外性と21世紀の課題
水野 和夫(元法政大学教授)
| 曜日 | 月曜日 |
|---|---|
| 時間 | 10:40~12:10 |
| 日程 |
全8回
・01月19日 ~
03月16日 (日程詳細) 01/19, 01/26, 02/02, 02/09, 02/16, 03/02, 03/09, 03/16 |
| コード | 340718 |
| 定員 | 24名 |
| 単位数 | 1 |
| 会員価格 | 受講料 ¥ 23,760 |
| ビジター価格 | 受講料 ¥ 27,324 |
講義概要
今や、近代を相対化して考察する時期である。産業革命以降の欧米、あるいは戦後日本において高度成長が終焉したのち、従来の常識が成り立たなくなっている。20世紀末から現在にかけて、世界中で所得や資産の格差が拡大し、米国では「絶望死」が増加している。日本では非正規労働者が増加し、実質賃金の下落が続いている。 近代社会が「経済成長がすべての怪我を治す」ことができたのは、安価な化石燃料に全面的に依存することで労働生産性を上昇させてきたからである。今や資源は高価となり、さらに枯渇の可能性がみえてきた。 近代は特殊な条件のもとで成立した社会であると考えると、4世紀続いた近代は人類史のなかで「例外」だったといえる。資本主義は富の「蒐集」に最も適したシステムであって、富は少数の超富裕層(ビリオネア)に集中する。21世紀の課題はいかに無制限の「蒐集」に歯止めをかけるかにある。ケインズを参考に処方箋を考える。
各回の講義予定
| 回 | 日程 | 講座内容 | |
|---|---|---|---|
| 1 | 01/19 | 人類史は「蒐集」(コレクション)の歴史 | 「蒐集」する目的はなにか、資本主義は何を「蒐集」するのかについて考える。「蒐集」の歴史はアレキサンダー大王の時代から始まる。皇帝の他国侵略と海賊行為との違いについてキリスト教社会の真学者は、その差は「正義」があるのだと考えてきた。絶対的な正義があるのかどうか、あるいは相対的なのかを考える必要がある。 |
| 2 | 01/26 | 近代とはいかなる時代か | 近代は人類史のなかで例外か常態かを考える。近代社会は「経済成長がすべての怪我を治す」との前提の上になりたっているが、そう考えることができたのはコペルニクス革命で宇宙が無限だとなって、地球も無限大だと考えたからだ。21世紀になってグローバリゼーションが進んでアフリカ大陸まで市場経済化に巻き込まれるようになって、地球の無限性が終わりつつある。 |
| 3 | 02/02 | 神の座に貨幣が座った近代 | ミリオネア(18世紀初頭)、ビリオネア(20世紀初頭)、トリリオネア(2030年前後)と、金持ちの資産額が指数関数的に増加。米国の所得分布で上位1%の人々の所得シェアが上昇し、その一方で、下位50%の人びとの所得シェアが低下している。市場経済では自由は所有の関数となって、所有=貨幣となり、貨幣を増やすことは自由の獲得となった。ケインズが懸念したように「貨幣愛」に歯止めがかからないのが近代の特徴である。 |
| 4 | 02/09 | 三大悪徳の制御を考えた近代国家の構築 | 貪欲、権力欲、名誉欲の過剰な追求は人類を滅ぼしかねないと心配したのは、17世紀後半から18世紀前半にかけて活躍したイタリアの哲学者ジャンバッティスタ・ヴィーコだ。21世紀の現在、ビリオネアは貪欲に資産を「蒐集」し、プーチンは他国の領土を「蒐集」しようとしている。所有と権力を手にしたトランプはノーベル平和賞という名誉を欲している。即ちトランプの対外政策は「友・敵理論」(カール・シュミット)に基づいており、敵を明確にするために関税を利用することで敵と味方を峻別している。敵と見なされれば、米国の影響が及ぶ経済圏から追放しようとしている。世界はますます不安化する方向にある。 |
| 5 | 02/16 | 「資本」とはなにか | 資本の定義は200余りあるが、マルクスの資本(G-W-G’)が最も資本主義の本質を考察するのに適している。G→G’のプロセスを重視するのが資金主義者の資本であり、W→W’を重視するのは唯物論者の資本である。前者はマルクスが『資本論』で資本主義を批判したものであり、後者は20世紀になって国民が豊かになる政策を考えるときに用いられた概念で、ケインズが代表的である。21世紀になると資本の概念のうちG→G’が資本家の関心事となって、経済がシンボル化した理由がみえてくる(第6回のテーマ)。 |
| 6 | 03/02 | リアル経済vs.シンボル経済 | 1971年のニクソンショック(金とドルの交換停止)で世界経済のシンボル化が進み、現在も続いている。日本では1980年代のバブル生成からシンボル化が始まった。ドラッカーによれば、経済のシンボル化は「不愉快な問題」に取り組むことを避けるためである。米国にとって双子の赤字(財政赤字と経常収支赤字)であり、日本にとって、少子・高齢化の進展は社会保障の持続性問題である。ここから目を背けるために、米国は強いドルと高関税、日本はイノベーションによる経済成長を期待している(第7回のテーマ)。 |
| 7 | 03/09 | イノベーションと格差 | 政府は2025年6月に「総合イノベーション戦略2025」を閣議決定した。冒頭で「科学技術・イノベーションは、国力の源泉であり、経済成長を加速させ、社会課題を解決する原動力である」と謳っている。IT革命といわれてすでに30年経過しているが、その兆候は全く見られない。IT社会はエジソン・フォードの時代にくらべてなぜ経済成長への貢献度が低いのか。それは、イノベーションが「公共財」になるような政策を政府が採用するか、あるいは「私的財」として独占的利用を容認するかにかかっている。 |
| 8 | 03/16 | 世界と日本の抱える問題 | 近代が「例外」だとしたら、近代を超える時代がくることを考えておかなければならない。それは同時に資本主義の次も考えておくことでもある。そのためには、まず近代社会が抱えた問題を解決しておく必要がある。その解決策はケインズが「わが孫たちの経済的可能性」(1930)で示唆している。実質金利ゼロになると、ケインズは「貨幣愛」禁止令が必要になるという。すでに日本とドイツは実質金利ゼロが続いている。「貨幣愛」禁止令を21世紀に当てはめれば、具体的にどういうものになるかを考える。 |
講師紹介
- 水野 和夫
- 元法政大学教授
- 愛知県生まれ。博士(経済学)。専門分野はマクロ経済学。三菱UFJモルガン・スタンレー証券(1980八千代証券入社-2010)、内閣府大臣官房審議官(2010)、内閣官房内閣審議(2011)、日本大学教授(2013/4-16/3)、法政大学教授(2016/4-24/3)。著書に『100年デフレ』(2003)、『終わりなき危機』(2011)、『資本主義の終焉と歴史の危機』(2014)、『次なる100年』(2022)、『世界経済史講義』(島田裕巳と共著、2024)、『シンボルエコノミー』(2024)などがある。




