ジャンル 日本の歴史と文化
早稲田校
気候変動がつなぐ世界史と日本史 定量的な復元データから気候変動が歴史に与えた影響を考察する
川幡 穂高(早稲田大学客員教授、東京大学名誉教授)
| 曜日 | 水曜日 |
|---|---|
| 時間 | 10:40~12:10 |
| 日程 |
全7回
・01月07日 ~
02月25日 (日程詳細) 01/07, 01/14, 01/21, 01/28, 02/04, 02/18, 02/25 |
| コード | 140210 |
| 定員 | 30名 |
| 単位数 | 1 |
| 会員価格 | 受講料 ¥ 20,790 |
| ビジター価格 | 受講料 ¥ 23,908 |
目標
・古気候・古環境だけでなく歴史学、歴史経済学などを総合的に理解する
・気候システムの基礎を系統的に理解する
・人類の遺伝子解析に基づき、祖先の血が現代人と現代社会に引き継がれていることを理解する
・気候・環境が社会に与えた影響を理解し、気候・環境要素の現代社会への示唆を考える
講義概要
温度などを含む、復元された最新の気候に関する数値データに基づき、世界史と日本史に大きな影響を与えた事象を対象に、気候の人間社会への影響を考える。今回は、欧州の中世温暖期とヴァイキングの活動、モンゴル帝国と元寇、小氷期と江戸時代の飢饉、極端な寒冷期となったフランス革命前夜と天明の大飢饉を扱う。気候や気象(台風、低気圧、高気圧)と、農業生産量などにとって重要な要素である食料生産、飢饉、人の移動、経済、病気、技術、文明、文化などの要素との関連についても議論する。
各回の講義予定
| 回 | 日程 | 講座内容 | |
|---|---|---|---|
| 1 | 01/07 | 欧米における中世温暖期とヴァイキングの活動 | 教科書では「中世温暖期(900〜1300年頃)」との記載がしばしば見受けられるが、これは大西洋を挟んだ欧米では確認されているが、日本列島では平安時代末期に寒冷気候だったこともあり、中世温暖期は世界的な現象でなかった可能性が高い。寒冷気候の限界地で活躍したヴァイキングの活動に焦点を当てて、北欧周辺地域への気候変動の影響を評価する。今回は「中世温暖期」「ヴァイキング」「アイスランド・グリーンランド」をキーワードとする。特に「アイスランド・グリーンランド」の周辺海域は、北極海航路、将来の地球環境にとって世界の最重要海域の観点から注目をあびている。 |
| 2 | 01/14 | 千年間でベストの気候が誕生させたモンゴル帝国 | 1180〜1190年代の未曽有の長期旱魃という気候最悪期に、モンゴル社会内部では乱闘や分裂が激化し、チンギス・ハーンが台頭した。その後、1211〜1225年の期間に、気候は1000年間でベストな湿潤状態へと転換した。これにより、軍馬用の飼料は遠征先でも豊かな草原から得られ、モンゴル帝国は13世紀に積極的な対外侵攻を行い、急速に発展し、ユーラシア大陸の超大国として君臨した。最大面積は3,300万㎢(地球上の陸地の約 25%)になり、モンゴル帝国の人口は最大1億人に達した。 帝国の軍隊による破壊と大虐殺は有名で、バグダッド包囲戦はその後のイスラム文明を改変した。交通の利便性はペストのパンデミックの重要な一要因となった。 |
| 3 | 01/21 | 元寇がストレスとなった受難の鎌倉時代 | 元寇は、鎌倉時代中期の1274年(文永の役)・1281年(弘安の役)に、モンゴル帝国(元朝)および属国の高麗によって2度にわたり行われた対日本侵攻である。モンゴルによる通商要求を幕府と朝廷は少なくとも6回無視した。弘安の役では、世界史上最大規模の艦隊が、九州北部の海岸に到来した。高いレベルの防衛活動の継続により元軍の上陸を阻止していたところ、中心気圧950hPaと推定される大型台風により、最終的に元軍の攻撃は終了した。元寇後も幕府は防備を怠らなかった。元寇は武家社会にとって大きなストレスとなり、これは「鎌倉幕府が崩壊へと向かう一つの重要な遠因」となった。 |
| 4 | 01/28 | 小氷期がもたらした江戸時代の飢饉 | 江戸時代は基本的に小氷期と呼ばれる寒い時代だった。このような環境下で火山噴火、エルニーニョ、日射量減少などの寒冷化要因が加わると、気候は極端に寒冷化した。江戸時代の四大飢饉は寛永の飢饉(1640〜43年)、享保の飢饉(1731〜32年)、天明の飢饉(1782〜89年)、天保の飢饉(1833〜37年)、東北地方の三大飢饉は宝暦の飢饉(1753〜57年)、天明の飢饉、天保の飢饉となる。享保の飢饉を除くと、東日本では冷害型飢饉となった。天明の飢饉は天災に人災が加わり被害は拡大し、これは幕藩体制を弱体化させた飢饉と考えられている。 |
| 5 | 02/04 | 小氷期中の極端な寒冷気候が影響したフランス革命前夜 | 1783〜1785年にアイスランド国のラキ火山やグリムスヴォトン火山が、噴出量が桁違いに大きい巨大噴火を起こした。膨大な量の火山ガスが成層圏に達して「火山の冬」をもたらした。猛毒のフッ化水素酸や二酸化炭素硫黄などが放出されて、多くの家畜や人々が死亡し、農地が荒廃した。さらに1782〜1784年、1785〜1786年の期間に、赤道太平洋はエルニーニョ状態となり、世界で異常気象が多発した。フランスでは1782〜1788年まで断続的に飢饉となった。人々は、収入の90%以上を食料に費やすこととなり、これは、既存の政府体制に対する「怒り」となった。これが爆発しフランス革命の勃発に向かうこととなった。 |
| 6 | 02/18 | 極端な寒冷気候を伴った天明・天保の飢饉などが促がす近代化への道 | 江戸時代には、平均気温が低い状態に、火山噴火、エルニーニョ、日射量減少などの寒冷化要因が加わると、気候は極端に寒冷化した。特に天保の大飢饉(1833〜1839年)では、天災に人災が加わり被害は拡大した。江戸時代後期の寒冷気候は、鎖国、幕藩体制、米に過度に依存した社会、収穫量の限界、農村疲弊など、社会のシステムを脆弱化させていった。慶応の飢饉(1866年)がこれにとどめをさした。温暖地域である西日本では、藩政改革などの成功した藩が出現した。江戸末期の東国の極端な寒冷化は、幕末の社会変革に際し西国が活躍できるような経済的な優位性の遠因になったと示唆される。 |
| 7 | 02/25 | 気候変動システムの基礎 | 気候システムの基礎を学ぶ。地球表層の温度は宇宙空間(平均温度はマイナス270.5℃)との熱交換により決定される。大気がない場合、地球の平均気温はマイナス18.5℃と計算されるが、実際には二酸化炭素や水蒸気による赤外線の吸収による温室効果により、33℃も高い、14.5℃が平均気温となる。太陽活動、反射率、日射量、大気の化学組成、大気中の粒子状物質、降雨、海流、塩分、水温、海氷、雪氷圏、大陸配置、火山噴火、アジアモンス−ン、エルニーニョ、ラニーニャなどが気候に与える影響について理解する。さらに、現代の地球温暖化に関する諸問題にどの因子が密接関係しているのかを考える。 |
ご受講に際して(持物、注意事項)
◆休講が発生した場合の補講日は3月4日を予定しています。
◆教科書とはしませんが以下の書籍をベースに最後の章の内容を回に分けて深く理解します。購入は任意ですがご参照いただくと理解が進みます。
『気候変動と「日本人」20万年史』(川幡穂高著 岩波書店 ISBN:978-4000615303)
◆気候・環境について予備知識がなくても受講可能です。
◆講義は過去を対象としますが、現代および将来の気候・環境問題への示唆についても解説します。
講師紹介
- 川幡 穂高
- 早稲田大学客員教授、東京大学名誉教授
- 横横浜市生まれ。博士(理学、東京大学) 。専門分野は、現代の地球環境・気候学、古環境学・古気候学。日本地球化学会および日本地球惑星科学連合元会長およびフェロー、欧州・米国の地球化学連合フェロー、早稲田大学や東京大学等で地球惑星科学などの授業を担当。専門は、生物地球化学をベースとした現代と過去の物質循環研究、現代の炭素循環に関する知見を過去に応用して古気候・古環境学の解析を行う一方、これらを統合して過去から未来への環境変遷の解析を行う。古気候学、人類学、考古学、歴史学を駆使した「気候変動と日本人20万年史」(岩波書店)がある。




