ジャンル 人間の探求

早稲田校

最も重要な仏典を読む 江戸時代の武士と仏教

  • 秋講座

正木 晃(宗教学者)

曜日 水曜日
時間 13:10~14:40
日程 全10回 ・09月24日 ~ 11月26日
(日程詳細)
09/24, 10/01, 10/08, 10/15, 10/22, 10/29, 11/05, 11/12, 11/19, 11/26
コード 130513
定員 34名
単位数 2
会員価格 受講料 ¥ 29,700
ビジター価格 受講料 ¥ 34,155

目標

・今に続く仏教の基本形が成立した江戸時代の仏教(近世仏教)が考察の対象です。
・動乱期が終わって天下太平の世となり、戦士から統治者に変わらざるを得なかった武士たちの精神世界を探求します。
・剣豪たちと仏教との関係も見逃せません。

講義概要

中世後期の動乱期、すなわち戦国時代が終わり、天下太平の世となりました。江戸時代は初期と末期を除けば、戦乱とは無縁でしたから、武士も戦士から統治者へと変わらざるを得ませんでした。この変化により武士は存在理由を問われることになったのです。そのとき武士の精神世界に大きな影響を与えたのは、儒教(朱子学)と禅宗でした。今回は禅僧たちの思想のみならず、最も武士らしい武士だった剣豪たち、江戸前期では宮本武蔵と柳生宗矩、後期では白井亨の著作などもとりあげ、その思想を読み解きます。また「武士道」の聖典とされてきた『葉隠』の虚実を考察します。

各回の講義予定

日程 講座内容
1 09/24 鈴木正三『念仏草紙』 徳川家康の親衛隊出身で、現代に続く日本人の労働観に大きな影響を残すなど、近世曹洞宗を代表する僧侶となった鈴木正三の著作です。尼僧と念仏行者の対話をとおして、仏法と世法の一致をわかりやすく説き、「近世」の到来を強く感じさせます。
2 10/01 沢庵『玲瑯集』 沢庵の生涯は、徳川政権に反抗して流罪となり、柳生宗矩に推薦されて将軍の側近となるなど、有為転変の激しいものでした。『玲瑯集』は戦国の余燼が残る世相のなかで、死後世界や幽霊を語るなど、他の禅僧たちとは大きく異なる死生観を展開しています。ちなみに沢庵は宮本武蔵とはまったく交友関係がありませんでした。
3 10/08 宮本武蔵『五輪書』 『五輪書』は剣豪として最も有名な人物の代表作です。武蔵が後世に名声を残せた理由は、彼が単なる剣豪ではなく、当時としては一級の文化人で、芸術的な才能に恵まれていたからです。この著作は「いかに効率的に人を殺すか」という課題を、極めて論理的かつ明解に語っています。
4 10/15 柳生宗矩『兵法家伝書』 柳生宗矩はおそらく史上最強の剣豪であるとともに、抜群の統治能力の持ち主でした。沢庵との深い交友などから、精神世界にも通暁し、剣豪としては史上最高の著作家という評価もあります。なお暗い印象を持たれがちですが、実際はかなりユーモラスな性格だったことが、沢庵とかわした書状からわかります。
5 10/22 山本常朝『葉隠』 『葉隠』といえば、武士道の聖典として有名です。しかしその実態は、もはや闘うことがなくなってしまった江戸時代の、天下太平の世に生まれついた武士の存在理由を、極めて観念的に論じた著作です。後世に多大の影響をあたえたと言われますが、その取り扱いには慎重さが欠かせません。
6 10/29 白隠『毒語心経』 現在の臨済宗は江戸時代の前半期に活動した白隠慧鶴の系統しか残っていません。したがって白隠の後世への影響は絶大ですが、彼自身は当時の臨済宗では、座元といって、最下級の地位にしか就けませんでした。『毒語心経』は白隠が『般若心経』に独自の解釈をくわえた著作です。この著作ほど、『般若心経』を「日本的」に解釈した例はなく、その意味でとても重要です。
7 11/05 白隠『夜船閑話』 白隠は若年の頃、常軌を逸するほどの厳しい修行に明け暮れました。その果てに、心身ともに異常な状態になってしまいます。このときある人物から、苦境を脱する秘法を教えられ、ようやく回復しました。この著作はそのときの経緯を語っていて、禅の修行にまつわる貴重な資料となっています。
8 11/12 祐天『死霊解脱物語聞書』 祐天は浄土宗の僧侶です。捨て子同然の境涯から、徳川家の菩提寺で、御三家並みに待遇を受けていた増上寺の住職にまで登り詰めました。その理由は祐天にたぐいまれな霊能があったからです。最初は不動明王真言で、やがて南無阿弥陀仏の念仏で、魑魅魍魎や死霊を片っ端から祈り伏せ、解脱させたと伝えられます。
9 11/19 良寛『良寛詩集』 良寛は曹洞宗の僧侶でした。僧侶としての力量には疑問符がつくとも言われ、また僧侶にあるまじき振る舞いもあったようです。その一方で、詩人としては抜群の才能を持ち、むしろこの領域で後世、高い評価を受けることになりました。このような人物が現れたという事実こそ、江戸時代における仏教の実態を如実に物語ります。
10 11/26 白井亨『明道論』 白井亨は江戸時代の末期、天保年間に稀有な剣豪として知られた人物です。大男が多い剣豪のなかで、体躯にさして恵まれず、随分苦労したようですが、念仏行者の指導を受けて大悟し、剣の道を極めたと伝えられます。

講師紹介

正木 晃
宗教学者
1953年、神奈川県小田原市生まれ。筑波大学大学院博士課程修了。専門は宗教学(日本仏教・チベット仏教)。文献研究に留まらず、現地調査を実施しチベット・ヒマラヤ地域の調査は20回に及ぶ。高度でありながら誰でも理解できる仏教学を志向。著作は『「ほとけ」論』『現代日本語訳 法華経』など多数。

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