ジャンル 文学の心
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日本語・日本文学とジェンダーの歴史をたどる
髙﨑 みどり(お茶の水女子大学名誉教授)
曜日 | 金曜日 |
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時間 | 13:00~14:30 |
日程 |
全8回
・07月04日 ~
09月05日 (日程詳細) 07/04, 07/11, 07/18, 07/25, 08/01, 08/22, 08/29, 09/05 |
コード | 720106 |
定員 | 30名 |
単位数 | 1 |
会員価格 | 受講料 ¥ 23,760 |
ビジター価格 | 受講料 ¥ 27,324 |
目標
・日本語を形成するものについて、具体的に知る。
・日本語を、単なるコミュニケーションの道具としてではなく、日本という国の歴史の刻まれた文化的存在として捉え、理解を深める。
講義概要
先進国の中で、賃金面や政治への参画などにおける“ジェンダーギャップ”が最悪と言われ続けている日本ですが、実は日本語の中にも深く刻まれたジェンダーギャップがあるのです。また、そうした日本語で記され、長い歴史を持つ文学にも、やはり不本意なジェンダーギャップが潜んでいますし、それに抗おうとしたいろいろな動きもあるのです。文学史でおなじみの文学作品を、そうした新しい観点で見たら、どうでしょう。また、聞いたことも無いような作品がひょっこり浮かび上がって、ジェンダーギャップの面から俄然脚光を浴びるのを見るのも、新鮮で面白いかもしれません。なるべく具体的な作品から沢山例を示していきます。
各回の講義予定
回 | 日程 | 講座内容 | |
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1 | 07/04 | 序論―身近にあるジェンダー意識 | 「明日、行くわ」と言うとき、最後の「わ」のイントネーションを上げ気味に「明日、行くわ⤴」と言うとすると、「あ、女性っぽい言い方だ」と感じませんか。でも「明日、行くわ⤵」と下げると、どうでしょう。なぜ、最後をちょっと上げるのは、より女性らしく感じるのでしょうか。また、「お医者さんと看護師さんが来てくれた」と言うと、とっさに思い浮かべるその性別は?女性の役割、とか、女らしさ・男らしさといった性別に関係させた意識や社会の仕組みが、自然に在るものではなく、文化や経済・政治、歴史の生みだしたものなのだ、と考えるのがジェンダー(学)の考え方です。そうしたジェンダーの見方について、色々な身近な例を使って、お話しします。 |
2 | 07/11 | 上代のことばと文学に見るジェンダー | 言葉遣いが男女によって異なるものがありました。男性から、妻・恋人を指す場合には「わぎも(我妹)」「わぎもこ(我妹子)」、女性から男性が「きみ(君)」「わがせこ(我背子)」、また女性は夫・恋人に対する歌に「す(尊敬の助動詞)」などを用いて敬意を表すこともありました。一方、「日本書紀」や「古事記」に女性作とされる歌謡があり、「万葉集」でも女性歌人が活躍します。また、歌には「女歌」という存在もあったようです。 |
3 | 07/18 | 平安時代のことばと文学に見るジェンダー | ひらがな(仮り名)が誕生しました。和文・和歌を記すのに向いており、「女手」とも称されましたが正式な文字・文章は漢字(真名)・漢文でした。物語が、貴族の姫君の楽しむものとして作られ、やがて物語の作り手は男性作家から女性作家へ移っていきました。遂に「源氏物語」の誕生。女性歌人の活躍、女性評論家、女性漢詩人の存在もありました。「男もすなる日記」から“女流日記文学”へ、歴史物語へ。日記的要素・随想的要素・類聚的発想をもつ「枕草子」も生まれました。 |
4 | 07/25 | 中世のことばと文学に見るジェンダー | 女性語の源流と言われる「女房詞」が記録に現れます。天皇の居所において、衣服や食事、行事などの世話をする女房たちの間で使われた一種の隠語、仲間うちの言葉です。女性の手になる物語評論や歌人評論、和歌論などが生まれました。「無名草子」がその代表です。女性の手になる家集や日記・紀行文も盛んに著述されました。特に上皇の愛人となった後深草院二条が記したという体裁の「とはずがたり」は興味深い存在です。 |
5 | 08/01 | 近世のことばと文学に見るジェンダー | 近世の女性語としては、遊女のことば、またその周辺には遊里言葉というものがありました。「ありんす」「ぬし」「なんす」等独特の語彙や言葉遣いが特徴的です。他に舞妓ことば、廓言葉、また、女房詞の流れひくお屋敷言葉・御所ことば等、女性の言葉とされるものは多岐にわたっていました。女性に対する教養・教育のための書物も多く出版され、「女重宝記」や「女大学」が有名です。町人文化のもと、俳諧、漢詩、和歌にも女性作者が進出しました。特に賀茂真淵は女性弟子を多く育てました。芭蕉門下にも女性俳人が輩出しました。ユニークな女性日記も多くありました。 |
6 | 08/22 | 近代のことばと文学に見るジェンダー | 近代国家に必要とされた「国語」形成からは女性の存在は排除されていたといってもよいでしょう。男性中心の「標準語」「普通文」、そして文学の方の「言文一致」の実態をみてゆきます。女性は激動する社会について、意見や感性をきちんと表現できる手段をなかなか獲得できませんでした。今では一般的には埋もれた存在である女性表現者たちの作品を紹介し、その苦闘のあとをたどります。樋口一葉も取り上げたいと思います。 |
7 | 08/29 | 現代のことばと文学に見るジェンダー | 明治以来続く、社会における家父長制、階級格差社会、性差によるさまざまな不平等は、結果的に女性に「女らしさ」を強いることともなり、ことばの面でも長く有形無形の圧力が働いてきました。そのなかでも実態では、女性の自覚や表現の努力により、ことばの性差は現代に至って縮小しつつあります。文学の面でも、男性作家中心の「文壇」の権威が薄まって、文学のありかたも多様化しつつあり、芥川賞直木賞選考委員に女性が加わった1987年、両賞を女性作家がはじめて受賞した1996年、はじめて芥川賞を二人の作家が同時受賞した2003年、最近はさまざまな出自の女性作家の活躍も目立ちます。 |
8 | 09/05 | ことばと文学に見るジェンダーのまとめとこれからの展望 | 第1回から7回目までをふりかえって、ことばにみるジェンダー、そして文学とジェンダーという大きな問題提起について、俯瞰してみたいと思います。そしてそのことは“これからどうなるのか”という思いにもつながっていきます。また、今回は日本語・日本文学だけでしたが、諸外国ではどうなっているのか、も見てみたいと思います。こうしたジェンダー平等といった考え方はかならずバッシングや萎縮、そしてまた再評価、といった繰り返しを伴いますが、そうした面がことばや文学など芸術分野にもでてきているのかどうかにも目を向けたいと思います。 |
ご受講に際して(持物、注意事項)
◆休講が発生した場合の補講は9月12日(金)を予定しています。
◆Zoomミーティングを使用したオンライン講座です。
◆お申込みの前に必ず「オンラインでのご受講にあたって」をご確認ください。
◆本講座の動画は、当該講座実施の翌々日(休業日を除く)17:30までに公開します。インターネット上で1週間のご視聴が可能です。視聴方法は、以下をご確認ください。
【会員・法人会員】授業動画の視聴方法(会員・法人会員向け) 【ビジター】授業動画の視聴方法(ビジター向け)
講師紹介
- 髙﨑 みどり
- お茶の水女子大学名誉教授
- 名古屋市出身。お茶の水女子大学文教育学部卒、同大学院修了。東京女子医大、明治大、お茶の水女子大等で日本語学の研究・教育に携わる。専門はテクスト・談話分析。編著『大正期「中央公論」「婦人公論」の外来語研究』、単著『テクスト語彙論』、単著論文「文体の異性装の実際」「文体とジェンダー意識」等。