ジャンル 芸術の世界

早稲田校

映画史研究

  • 春講座

小松 弘(早稲田大学教授)

曜日 月曜日
時間 13:10~14:40
日程 全9回 ・04月07日 ~ 06月09日
(日程詳細)
04/07, 04/14, 04/21, 04/28, 05/12, 05/19, 05/26, 06/02, 06/09
コード 110473
定員 30名
単位数 1
会員価格 受講料 ¥ 26,730
ビジター価格 受講料 ¥ 30,739

目標

・映画史の最初の30年間に何があったのかを理解する。
・広範な地域に及ぶ映画の歴史を知る。

講義概要

比較映画史という新たな研究方法を導入し、映画の始まりから1920年代末までの、いわゆる無声映画の歴史を扱います。無声映画は言葉がないということもあって、俳優たちの個性的な演技や、映像そのものによる、雄弁な語りに特徴があります。それは映画であるとはいえ、現在人々が映画として認識するものとは異なって見えるかもしれません。しかし映画遺産として残された無声映画は、現代のわれわれにも驚くほどの豊かな藝術的体験を与えてくれます。その秘密を一緒に考えてみましょう。

各回の講義予定

日程 講座内容
1 04/07 映画の発明 伝統的な藝術がどのように発生してきたのかを、実証的に調べることは恐らく不可能なことです。これに対して、映画の誕生はどのようにしてなされたのかを知ることができます。この違いは何でしょうか。映画の前には写真術の誕生もありましたが、それらは絵画や音楽や舞踊や演劇などとは明らかに異なった様相を呈しているのです。それでは、発生論的に映画藝術の本質には何があり、それはどのように歴史の時間の流れの中で、絵画や音楽や舞踊や演劇などとともに藝術の輪を構成するようになったのでしょうか。
2 04/14 映像によって見せることと語ること 映画の始まりには、特別に「語る」ことなどありませんでした。動きを見せること、それが映画が誕生して以来の第一の使命でした。だから、映画は別の方向に進化することも可能であったのです。例えば、医学映画。手術の経緯を記録する映画などが含まれます。特定の病人の症状を記録する映画もあります。これらはすでに1908年以前に、映画が用いられるべき領域となっていました。しかしやがて、映画の役割として、そうした記録性よりも、物語を「語る」という側面が大きくなりました。物語映画は20世紀になって数年を経てようやく確立しますが、それはあっという間に映画の実体そのものにまで成長してしまうのです。
3 04/21 アメリカ映画 どんな藝術でも、アメリカの始まりより前にヨーロッパに存在し、アメリカにおいてはそうした伝統的な藝術は長い間ヨーロッパの藝術の模倣にとどまった一方、映画だけはアメリカがどこの国よりもリードしていたし、アメリカ映画にかなう他国の映画藝術はないと考えるアメリカ人はかつては多くいたようです。こうしたアメリカという国の「地方的な」偏見は、しかし顧みられるべきいくつかの映画史的重要性を含んでいます。映画はそもそもどの程度にアメリカ的な本質を中心とした藝術なのでしょうか。
4 04/28 フランス映画 リュミエールのシネマトグラフを生んだフランスこそ映画の始まりを高らかに告げた国だと考える人々がいます。最初の映画はアメリカのエディソンから生まれたというより、フランスのリュミエールから生まれたという命題は様々な角度から議論可能です。もっとも、フランス映画の無声映画期の展開をアメリカ映画のそれと対峙させて考えた場合、ある時期までのフランス映画が、独自の展開を遂げたのに対し、結局もっとも有名な無声映画期のフランス映画はアメリカ映画からの刺激なしには生まれえなかったともいえるのです。しかしそれと同時に、フランス映画は早くから同時代の藝術の前衛的志向と結びついた映画をも実現させることができました。
5 05/12 イタリア映画 1910年頃から1914年頃までのアメリカ映画にイタリア映画が与えた影響は大変大きなものでした。映画の長編化はイタリアから始まったと言えます。1912年から1913年にかけて上映時間が1時間を超える劇映画は、もはや例外的なものではなくなりました。1914年のイタリア映画「カビリア」は上映時間が3時間を超えています。こうした上映時間だけでなく、オペラ劇場での上映が似つかわしいような伝統的な藝術に近い質を持つ映画がイタリアで製作され、それらは諸外国に輸出され、映画の社会的通念を大きく変更させることに寄与するのです。
6 05/19 ドイツ映画 伝統的には音楽藝術と演劇藝術が大きな力を持っていたドイツでは、隣国のフランスやイタリアと同じような関心で初期の映画が発展したわけではありませんでした。1912年頃までドイツの映画マーケットはフランスとイタリアの映画で独占されていたのです、パルジファルやニーベルンゲンのような、リヒャルト・ワーグナー的な世界ですら、ドイツでではなくイタリアで映画化されたものが、ドイツで公開されたりしました。しかし1913年になると状況は一変します。ドイツ映画は世界映画マーケットの最前線に突出するようになるのです。一体何が起こったのでしょうか。
7 05/26 デンマーク映画とスウェーデン映画 北欧諸国の中でも無声映画史に特権的な役割を果たしているのが、デンマークとスウェーデンです。伝統的な藝術においてこれら二国は必ずしも突出的な役割をはたしてはおらず、地方的な藝術ないしは民族藝術という範囲内で豊かな発展を示したにすぎませんでした。しかし映画藝術においては期間としては短かったにもかかわらず、デンマークとスウェーデンは世界映画のマーケットに躍り出て、世界中の映画ファンを魅了することができたのです。そうした状況を具体的に見てみましょう。
8 06/02 ロシア・ソヴィエト映画、小国の映画の革新的藝術(日本、チェコ、ハンガリー) 帝政時代にロシアではすでに映画産業が活性化しており、優れた映画監督や俳優たちを輩出しました。ロシア革命の後、帝政期の監督たちは亡命し、ソビエトにはエイゼンシュテインやプドフキンなど若い新たな映画監督たちが出現し、新しい国家の映画藝術を担いました。一方小国の映画藝術にも目を向ける必要があります。日本映画ですが、比較映画史的な観点から、新たに無声期をとらえなおしてみましょう。そしてハプスブルグの文化藝術への響きをもって、あまり論じられることのないチェコとハンガリーの無声映画藝術についても言及しましょう。
9 06/09 無声映画藝術とは 突如消え去った無声映画の藝術は、その後世界各国のアーカイブの中から、息を吹き返し、現代によみがえっています。そこには何があったのでしょうか。足掛け40年に満たない歴史の中で、無声映画は驚くべき美しい世界を表象してきました。その美しさ麗しさは、恐らく無声映画に幸いにも触れえた人々のみが味わえる秘密の映像世界です。40年に満たない歴史とはいえ、数多くの作品が作られ、また実際に現在まで残され、美の遺産を形成する無声映画を今一度歴史の分節として認識し、それぞれの時代がどのような美的意味を持っていたかを考察してみましょう。

ご受講に際して(持物、注意事項)

◆3/7(金)13:30より本講座の無料体験講座を早稲田校で実施します。
◆無料体験講座お申し込みはこちらから。
https://www.wuext.waseda.jp/course/detail/65506/




◆参考図書として、ジュルジュ・サドゥール「世界映画全史」(全12巻 国書刊行会)をあげておきます。任意ですがご覧いただけますと、理解が深まります。

講師紹介

小松 弘
早稲田大学教授
東京藝術大学にて美学・美術史学を学び、デンマーク政府給費留学生としてコペンハーゲン大学映画学研究所にて映画史学・映画理論・映画作家論を研究する。東京国立近代美術館フィルムセンター(現・国立映画アーカイブ)にて初期ヨーロッパ映画のフィルム・コレクション、小宮登美次郎コレクションの復元作業に従事。無声映画史に関する専門の研究者として国際的に活躍。2002年ポルデノーネ無声映画祭(イタリア)にてジャン・ミトリ賞を受賞。埼玉大学教養学部助教授、早稲田大学文学部助教授を経て現在早稲田大学文学学術院教授。著書に「起源の映画」(青土社)「ベルイマン」(清水書院)、共訳書にジョルジュ・サドゥール「世界映画全史」(国書刊行会)など。
  • 外国語 コースレベル選択の目安
  • 広報誌「早稲田の杜」
  • オープンカレッジ友の店