ジャンル 世界を知る

中野校

【対面+オンラインのハイブリッド】五行思想と五つの視点で読みとく中国文明史 分類マニア的な民族性と美意識

  • 夏講座

加藤 徹(明治大学教授)

曜日 火曜日
時間 10:40~12:10
日程 全5回 ・07月01日 ~ 07月29日
(日程詳細)
07/01, 07/08, 07/15, 07/22, 07/29
コード 320312
定員 40名
単位数 1
会員価格 受講料 ¥ 14,850
ビジター価格 受講料 ¥ 17,077

目標

・歴史の真実を知る面白さを学ぶ。
・現代と近未来の問題を歴史をヒントに考える。
・中国社会の特徴を理解することで、日本社会への教訓を得る。

講義概要

中国の「五行思想」は、あらゆる事物を五種類に整理して相互関係を設定するという、自然認知の哲学です。現代の科学から見ると奇妙な点もありますが、古代においては進歩的な世界観であり、日本や中国の歴史にも大きな影響を与えてきました。実際、複雑怪奇に見える中国史の事象も、五行的な視点で「五つの要素」に注目すると、すんなりと本質がわかることが多い。その理由は、中国人が過去二千年にわたり、個人レベルでも社会レベルでも「五行」を意識して生きてきたからです。本講座では、紀元前11世紀から現代までの中国文明史を「五行」の視座を使って読み解き、豊富な映像資料を使い、予備知識のないかたにもわかりやすく解説します。

各回の講義予定

日程 講座内容
1 07/01 五行 2400年前の戦国時代から2千年前の漢代にかけて形成された「五行思想」は、中国人(以下、主に漢民族を指します)の日常生活から天下国家の政治運営に至るまで、絶大な影響を与えてきました。世界的に見ても、中国人の「分類マニア」ぶりは異常です。人や事物に対するレッテル貼りを好みます。「木・火・土・金・水」の「五行」を基本として、五方、五時、五倫、五臓、五味、五穀、五音、五族・・・など、さまざまな事物を強引に「五つ」に分類したうえで、それぞれの協調と敵対の関係を設定してきました。1949年に成立した中華人民共和国の国旗も五つの人間集団を黄色い星であらわす「五星紅旗」であり、文革中は出自家族のレッテル貼り「紅五類」「黒五類」が横行しました。中国人の強みでもあり弱みでもある「五行的視点の呪縛」について、わかりやすく解説します。
また「自分という人間に対して、中国人が好意的なレッテルを貼るよう、相手を誘導する秘訣」という中国人相手の処世術についても言及します。
2 07/08 五味 中国料理の五味は「酸・苦・甘・辛・鹹(塩辛い)」です。日本料理の五味「甘味・塩味・酸味・苦味・うま味」と少しだけ違います。料理を芸術に高めた中国人は、料理に技術だけでなく哲学も求めました。儒教の古典『礼記』月令篇では、五行思想にのっとり季節ごとの五味が規定されています。宮廷料理だけでなく、庶民の家庭料理や郷土料理の味つけも、五味の影響が強い。現代中国の民間のことわざで「東は酸っぱく、南は甘く、西は辛く、北はしょっぱい」と言います。同じ中華料理でも東西南北では基本的な味が違う。東の山東料理はすっぱいが、南の広東料理は甘く、西の四川料理は辛く、北の北京料理はしょっぱい。五行思想の「木火土金水」「東南中西北」「酸苦甘辛鹹」の配当と、21世紀現在の中華料理の味つけの現状をくらべると、東と西と北は今も五行思想のままです。中国料理の味という卑近で具体的な事例から五行的な視点で読み解くと、中国人の地域差が、手に取るようにわかります。
3 07/15 五倫 台所のガスコンロで鍋をささえる金具を「五徳」と言います。五徳は本来、儒教の「温・良・恭・倹・譲」の五つの徳を指します。儒教では、人間が常に備えるべき五つの性向を「仁・義・礼・智・信」の「五常」にまとめました。また五つの社会的な人間関係を「父子・君臣・夫婦・朋友・長幼」の「五倫」としました。五徳、五常、五倫など人間関係のエッセンスも、五行思想に収斂され、五つの要素として配当されました。明治時代の「教育勅語」の「我カ臣民克ク忠ニ克ク孝ニ」「爾臣民父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦??相和シ朋友相信シ」という言葉も五倫をふまえています。西洋のnationの訳語が「国家」であることからもわかるように、中国の政治や社会は「家族」を出発点とする人間関係を延長するという発想で運営されてきました。昔の中国でいわゆる「小乗仏教」が定着しなかった理由、近現代の中国が「社会主義」を受け入れた理由も、ここにあります。儒教と中国共産党は真逆であると誤解する日本人は多いですが、中国文明史という巨視的な観点から見れば、中国は今も昔も個人主義より集団主義の国であり、人間関係こそ最大の資本であるとする価値観をもつ国です。「父子・君臣・夫婦・朋友・長幼」と「木火土金水」の配当をくらべると、中央(土)は「夫婦」です。現代日本語の「不倫」が、五倫のうち夫婦関係の不倫だけを指す理由も、実はここにあります。
4 07/22 五音 近代西洋の音韻学が伝わる以前、東アジアの漢字文化圏では、子音の発音を五種の「五音」に大別していました。五音は「唇・舌・歯・牙・喉」の5つです。歌舞伎の『外郎売』(ういろううり)の口上「そりゃそりゃそらそりゃ、廻って来たわ、廻って来るわ。アワヤ喉、サタラナ舌にカ牙サ歯音、ハマの二つは唇の軽重。開合爽やかに、アカサタナハマヤラワ、オコソトノホモヨロヲ」も、五行思想の五音をふまえたセリフです。また音楽の五音(五声)は「宮・商・角・徴・羽」で、それぞれ西洋音階のド・レ・ミ・ソ・ラにあたります。本講座の講師(加藤徹)はNHKテレビの番組『中国語!ナビ』の担当講師でもあり、また研究の専門は京劇や明清楽(みんしんがく)などの音楽文化です。日本語と中国語は、同じ東アジアの国どうしなのに、どうしてこんなに発音のしかたが違うのか。中国と日本の歌曲は、どうしてこんなに風格が違うのか。中国人の音声は、日常生活の会話も、歌声も、「メリハリをはっきり、くっきりと区別する」という五行思想の発想が根底に流れています。音楽や言語に興味のないかたにもわかりやすく、「耳で聞けばわかる中国人の心のくせ」を解き明かします。
5 07/29 五族 「五族」は漢文古典では五つの氏族・親族を指す言葉でした。時代がくだると、五つの「民族」を指すようになります。「五胡十六時代」の「五胡」は、五つの非漢民族「匈奴・鮮卑・羯・氐・羌」です。20世紀初めに成立した中華民国のスローガン「五族共和」では「漢・満・蒙・回・蔵」(蔵はチベット人)の5つの民族とされました。満洲国の「五族協和」では「満・漢・蒙・日・鮮」(この順番は『大漢和』の五族の項)で、満洲国の国旗の五色と各民族が結びつけられました。1949年に成立した中華人民共和国の国旗「五星紅旗」の五つの星は民族ではなく、五つの社会階級です。「五族」をキーワードに、統合の理想と内訌の現実の歴史を解き明かします。

ご受講に際して(持物、注意事項)

◆休講が発生した場合の補講日は8月5日(火)を予定しています。
◆予備知識のない初心者のかたも大歓迎です。
◆本講座は対面でもオンラインでも受講できるハイブリッド講座です。対面・オンラインのご都合の良い形式でご受講いただけます。
◆講師は中野校の教室で講義し、オンラインで同時配信いたします。
◆対面でご受講される方は、通常の対面講座と同様に開講確定後にお送りする教室案内通知記載の教室にお越しください。
◆テキストはありません。教材はネット上に公開します。教室での対面受講者にはプリントを配付します。
◆オンラインで受講される方はオンライン講座と同様にマイページからご受講ください。
◆オンラインは、Zoomのウェビナー形式を使用しています。
◆オンラインでの受講予定の方はお申込みの前に必ず「オンラインでのご受講にあたって」をご確認ください。
◆本講座の動画は、当該講座実施の翌々日(休業日を除く)17:30までに公開します。インターネット上で1週間のご視聴が可能です。視聴方法は、以下をご確認ください。
【会員】授業動画の視聴方法(会員向け)
【ビジター・法人会員】授業動画の視聴方法(ビジター・法人会員向け)

講師紹介

加藤 徹
明治大学教授
1963年、東京生まれ。東京大学中文科を卒業後、同大学院人文科学研究科博士課程単位取得満期退学。文学修士。専門は京劇(中国の伝統演劇)。著書に『京劇』(中公叢書、2002年度サントリー学芸賞受賞)、『西太后』(中公新書、2005年)、『貝と羊の中国人』(新潮新書、2006年)、『漢文で知る中国』(NHK出版、2021年)その他がある。2025年4月よりNHKテレビ「中国語!ナビ」に出演中。
  • 外国語 コースレベル選択の目安
  • 広報誌「早稲田の杜」
  • オープンカレッジ友の店