ジャンル 現代社会と科学
中野校
スミス、マルクス、ケインズの処方箋 幻想のシンボルエコノミーvs.絶望のリアルエコノミー
水野 和夫(元法政大学教授、芸術文化観光専門職大学客員教授)

曜日 | 金曜日 |
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時間 | 10:40~12:10 |
日程 |
全6回
・04月11日 ~
05月23日 (日程詳細) 04/11, 04/18, 04/25, 05/09, 05/16, 05/23 |
コード | 310704 |
定員 | 24名 |
単位数 | 1 |
会員価格 | 受講料 ¥ 17,820 |
ビジター価格 | 受講料 ¥ 20,493 |
目標
・1980年代前半からシンボルエコノミー(株価、為替、資本取引)が世界経済を動かす原動力となった背景を理解することができる
・経済がシンボル化した背後には、労働と資本を使って必要な財・サービスを提供するリアルエコノミーが停滞したことがあり、その結果、賃金が下落するようになった
・21世紀になって、格差が極端に広がったり、トランプが再選されたりするなど、資本主義や民主主義が機能不全となっている背景を理解することができる
講義概要
1980年代になって、米国をはじめ先進国は「不愉快な問題」解決を放棄し、グローバリゼーションによってシンボルである株価や為替を操作することで経済が上手くいっているかのようにみせかけている。ケインズが『一般理論』で指摘していた貯蓄誘因が投資誘因よりも常に強いことが世界経済にとって問題だと指摘していた。日本やドイツ、産油国などが過剰貯蓄となってきたので、それを引き受ける主体、すなわち過剰消費の国が存在しなければ、世界経済の均衡が崩れてしまう。その場合株価や為替が急激に変動するので、それを防ぐために米国が過剰消費を続けることになった。その結果、バブルが世界同時多発的に起きるようになった。
各回の講義予定
回 | 日程 | 講座内容 | |
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1 | 04/11 | リアルエコノミーを圧倒するシンボルエコノミー | リアルエコノミーの拡大を象徴するのが企業の601兆円の内部留保金と9.0%のROE(自己資本利益率)、それに対してリアルエコノミーの「定常状態」を表しているのが企業の367兆円の固定資産と1.0%の国債利回り。 こうしたシンボルとリアルの乖離は21世紀に入って顕著となっているが、両者の乖離は1980年代前半から始まっている。 |
2 | 04/18 | 世界の課題である「過剰貯蓄」の顕在化 | 過剰貯蓄が生じる原因は、将来不安である。将来不安を生んだきっかけは1971年のニクソンショック(金とドルの交換停止)だった。いつの時代でも秩序が安定しているかぎり、将来不安は顕在化しないが、秩序の中心が動くと社会不安が起きる。資本主義経済のもとでは、中心は金とリンクされていたドルだった。将来不安が各国の貯蓄超過(=経常収支黒字)を生み、どこかの国がそれを吸収すべく消費過剰(経常収支赤字)とならざるを得ない。このシステムを継続させるには、ドル高が不可欠となった。米ウォール街に世界中のマネーが集まる仕組みが出来上がっている。不均衡を先送りする奇妙な均衡が成り立っている。 |
3 | 04/25 | 資本の定義と機能―唯物論資本と資金主義資本 | リアルエコノミーとシンボルエコノミーは資本が有する二つの機能と結びついている。リアルエコノミーの資本は唯物論者の資本であり、GDPを生み出す機能がある。一方、シンボルエコノミーの資本は資金主義者の資本で、いつでも換金でき社会の新陳代謝を生み出す機能を有している。20世紀までは二つの資本はパラレルに動いていたが、21世紀に入って乖離が目立っている。 |
4 | 05/09 | 中心の喪失-「長い16世紀」と「長い21世紀」の類似性 | 「長い16世紀」と「長い21世紀」に共通するのは、中心の喪失だ。前者はコペルニクスの宇宙論が教会の宇宙論(コスモス)を崩壊させた。後者は資本主義社会の価値尺度であり不動の価値をもつドルが将来いくらになるか分からなくなった。秩序が崩壊していく「長い16世紀」では旧体制を強固にしようと異端裁判や魔女裁判で底辺にいる人々を排除しはじめた(「血の立法」といわれる浮浪者取締法)結果、「魔女」や浮浪者は増え続けた。「長い20世紀」では正社員を非正規に置き換え、いままで以上に利潤追求が行わるようになった(ROE革命)。 |
5 | 05/16 | 世界同時多発化するバブル | 「強いドル」政策と世界株高現象はバブル化しやすい。ただし、バブルは弾けてはじめてバブルだっと認定されるため、現在の株高現象をバブルと断定はできない。世界の過剰貯蓄問題は現在株高で隠されているが、その背後で格差拡大が進んでおり、より大きな問題を先送りしていることになる。 |
6 | 05/23 | 21世紀の課題ースミス、マルクス、ケインズの処方箋 | 21世紀が抱える問題の根底には「自由」をどうとらえるかにかかっている。資本主義社会においては「自由は所有の関数」となり、その所有欲はスミスは「共感」でコントロールされると考えた。ケインズはゼロ金利社会(定常状態)になったら、「貨幣愛」(所有欲)を禁止するよう提案している。マルクスは所有権そのものが諸悪の根源だと判断し、共産主義社会へ移行すると予想した。21世紀の現在、「共感」と「私的所有権廃止」は失敗しているため、あとはケインズの処方箋を試すほかない。 |
ご受講に際して(持物、注意事項)
◆休講が発生した場合の補講日は5月30日(金)を予定しています。
講師紹介
- 水野 和夫
- 元法政大学教授、芸術文化観光専門職大学客員教授
- 愛知県生まれ。博士(経済学)。専門分野はマクロ経済学。三菱UFJモルガン・スタンレー証券(1980八千代証券入社-2010)、内閣府大臣官房審議官(2010)、内閣官房内閣審議(2011)、日本大学教授(2013/4-16/3)、法政大学教授(2016/4-24/3)。著書に『100年デフレ』(2003)、『終わりなき危機』(2011)、『資本主義の終焉と歴史の危機』(2014)、『次なる100年』(2022)、『世界経済史講義』(島田裕巳と共著、2024)、『シンボルエコノミー』(2024)などがある。