ジャンル 文学の心
中野校
名作文学をケアで読み解く 『虎に翼』から『ピーターラビット』、山崎ナオコーラ、ハン・ガンの作品まで
小川 公代(上智大学教授)

曜日 | 土曜日 |
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時間 | 13:10~14:40 |
日程 |
全4回
・01月18日 ~
02月15日 (日程詳細) 01/18, 01/25, 02/01, 02/15 |
コード | 340122 |
定員 | 24名 |
単位数 | 1 |
会員価格 | 受講料 ¥ 11,880 |
ビジター価格 | 受講料 ¥ 13,662 |
目標
・ケアとは、家事、子育て、看護に限られたことではないことを知るために、名作における人種的マイノリティ、性的マイノリティの描かれ方を見ながら、戦争、エコロジーなどもケアの問題として考えてみる。
・「ケアの倫理」を文学を通して理解するために、キャロル・ギリガンの『もうひとつの声で』の議論だけでなく、ケアをめぐる物語にはどういったものがあるかについて幅広く触れる。
講義概要
文学作品だけでなく、映画やドラマにも、社会で光が当てられずにいる人たちの「物語」が語られています。たとえば、ケア実践を担う女性たち、マイノリティとしての生き方が必ずしも社会の規範と一致しない人たち、国家間の戦争の暴力の一方的な被害者となる人たち、彼ら、彼女らの物語を、ケアの倫理を通して読むことで、ケアの対象からこぼれ落ちる人たちがいることがよくわかり、見えなくされてきた「生」があることをより深く理解できるようになります。最初にとりあげたい連続テレビ小説『虎に翼』は、自己実現を果たした猪爪寅子をめぐる物語ですが、ケアの視点から考えてみると世界の見え方が変わるのではと思います。さまざまな名作について考えていきましょう。
各回の講義予定
回 | 日程 | 講座内容 | |
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1 | 01/18 | ケアとは何か(『虎に翼』を中心に) | 「ケア」とは無私性、あるいは自己犠牲であるという考え方がありますが、ケアの倫理の提唱者のキャロル・ギリガンは、そうではないといい、他者の「声」と自己の「声」の間で板挟みになる葛藤を肯定することといいます。連続テレビ小説『虎に翼』では、「正義」や「正しさ」より、多様な「正しさ」のあいだで葛藤し続ける登場人物たちの生き生きとした姿が描かれます。『アンネの日記』などの名作にもケアとは何かという問いが語られています。いくつかの作品を丁寧に見ていきましょう。 |
2 | 01/25 | ケアと他者・マイノリティ(『フランケンシュタイン』を中心に) | 誰も取り残されたり傷つけられてはならないと考えるのがケアだとすれば、『フランケンシュタイン』で語られる、無責任に生み出されて捨てられるクリーチャーの物語は「ケアレスネス」がテーマである。近代黎明期の社会や作者であるメアリ・シェリーの生涯についても話します。生まれ落ちたばかりの赤ん坊、言葉を話せない外国人、マイノリティの人びと。お互いがお互いに対して応答しあう物語とは。吉田恵里香『恋せぬふたり』、山崎ナオコーラ『偽姉妹』などについて考えてみましょう。 *シャーロット・ゴードン『メアリ・シェリー』小川公代訳(白水社、2024年11月刊行予定) |
3 | 02/01 | ケアと戦争・人種差別(ヴァージニア・ウルフの『三ギニー』を中心に) | 梁英聖は レイシズムを「人種化して、殺す(死なせる)、権力である」と定義しています。歴史を遡ると、植民地主義による権力支配のなかで、いかに特定の人種の人たちの命が奪われ、尊厳が毀損されてきたかという物語があります。ヴァージニア・ウルフの「アウトサイダー」という考え方や、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』などを分析することによって、戦争・人種差別のテーマを扱う作品について考えてみましょう。 |
4 | 02/15 | 惑星的なケアとは?(『ピーターラビット』やハン・ガンを中心に) | ケア・コレクティブ『ケア宣言』では、生態系を包括的に考える「惑星的なケア」について議論されています。自然は必ずしも人間から独立して存在するものではない。生きものたちは相互に作用しあって共生しています。英環境保護団体ナショナル・トラストの礎を築いたのは『ピーターラビット』の作者で、粘菌研究者のビアトリクス・ポターでした。戦争だけでなく、エコロジーと人間の関係を描く韓国作家ハン・ガンの作品についても考えてみましょう。 |
ご受講に際して(持物、注意事項)
◆休講が発生した場合の補講日は2月22日(土)を予定しています。
講師紹介
- 小川 公代
- 上智大学教授
- 1972年和歌山県生まれ。上智大学外国語学部教授。専門は、ロマン主義文学、および医学史。ケアの観点から多様な文学作品を読み直す試みを続けている。著書に『翔ぶ女たち』、『ケアの倫理とエンパワメント』、『ケアする惑星』(いずれも講談社)、『ゴシックと身体 想像力と解放の英文学』(松柏社)など。