ジャンル 文学の心
中野校
近代小説の「読み方」―謎(しかけ)から読み解く近現代小説 村上春樹、夏目漱石、芥川龍之介、宮澤賢治、太宰治、川端康成
相沢 毅彦(早稲田大学高等学院教諭)

曜日 | 水曜日 |
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時間 | 10:40~12:10 |
日程 |
全6回
・10月16日 ~
11月20日 (日程詳細) 10/16, 10/23, 10/30, 11/06, 11/13, 11/20 |
コード | 330127 |
定員 | 24名 |
単位数 | 1 |
会員価格 | 受講料 ¥ 17,820 |
ビジター価格 | 受講料 ¥ 20,493 |
目標
・小説の中にある〈謎〉や〈しかけ〉を見つける力を身につける。
・〈謎〉や〈しかけ〉の解き方についての理解を深める。
・新たな世界の捉え方(世界観)についての理解を深める。
講義概要
この講義では近代小説を読むことを通して、普段の私たちの見方とはまた別の仕方で世界を捉えることができるようになることを目指します。優れた近代小説は往々にして〈謎〉として現れ、そうであるが故に「何を言いたいのか分からない」といった感慨を私たちに与えるように思えますが、その一方で「理由は分からないけれど何かいい」と思わせるようなものにもなっているのではないでしょうか。では、その良さとは一体何なのか。本講義ではその源となっている〈謎〉や〈しかけ〉を解くことで、その良さを理解してもらうと同時に自分の世界の捉え方が日常的なものとはまた違った見え方に変化しているということを体験してもらえたらと思っています。
各回の講義予定
回 | 日程 | 講座内容 | |
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1 | 10/16 | 村上春樹「鏡」ー「「僕」でありながら「僕」ではない「僕」」とは何かー | 「村上春樹の小説は何を言っているのか分からない」とよく耳にする通り、その語られた言葉を理解するのは難しいかと思います。 この作品で言えば、夜中に「鏡はあったのか、なかったのか」、鏡の中から出現する「「僕」でありながら「僕」ではない「僕」」とは一体何なのか、また、そのようなことを語ることで結局、この小説が何を語ろうとしているのか、それらを解き明かすことで近代小説の読み解き方、あるいは近代小説がどのような事柄を問題にしているのかということがお伝え出来たらと思っています。 |
2 | 10/23 | 夏目漱石『夢十夜』「第一夜」ー「自分」は百年後に女と逢うことができたのかー | 夏目漱石はロマンチストだという人もいますが、それはどのくらいのものなのか。 また、そのようなロマンチシズムが成立するためには、その背後にどのような世界観を持っていたのか。 「語り手」の「自分」が「女」と百年後、再会出来たのか出来なかったのかという問いを起点として、夏目漱石が或いは近代小説が問題としてきた事柄について考えていきたいと思っています。 時間があれば漱石が書いた「虚子著『鶏頭』序」、「文芸の哲学的基礎」、「人生」などについても触れていければと思っています。 |
3 | 10/30 | 芥川龍之介「羅生門」ー作品の末尾「下人の行方は誰も知らない」とは何を意味するのかー | 定稿「羅生門」の末尾「下人の行方は、誰も知らない。」という言葉は、それまで下人の行方を語れていたはずの「語り手」もまた下人の行方が分からなくなってしまうという謎を提起しているように見えます。 では、そのようなことを語ることで「語り手」はどのようなことを私たちに伝えていることになるのでしょうか。 「餓死をするか盗人になるか」、下人と老婆とのやりとりの中での齟齬、語りの中で突然現れてくるSentimentalismeというフランス語、そうしたことの意味を考えながら、「羅生門」について考え、またそれを通して近代小説の問題を考えていけたらと思っています。 時間があれば同じ芥川龍之介の小説「藪の中」についても言及する予定です。 |
4 | 11/06 | 宮澤賢治「注文の多い料理店」ー死んでしまった二疋の犬が二人の紳士を助ける意味とはー | 「注文の多い料理店」では、二人の紳士がつれていた二疋の白熊のような犬が作品冒頭で泡を吐いて死んでしまいますが、よりによってその二疋の犬が山猫軒で食べられそうになっていた二人の紳士を助ける話になっています。 また、「風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。」という一言一句同じ文が二箇所出てきますが、このことは何を意味しているのでしょうか。 加えて、作品前半では「山鳥を拾円も買つて帰ればいゝ。」というように「拾円」という表記だったものが、後半では「途中で十円だけ山鳥を買つて東京に帰りました。」と「十円」に変化してもいます。 このような謎を通してこの作品はどのようなことを伝えていると言えるのかについて考えていきたいと思っています。 |
5 | 11/13 | 太宰治「嘘」ーどこまでが嘘でどこからが真実かー | 太宰治の「嘘」は語り手の「私」が「男は嘘をつく事をやめて、女は慾を捨てたら...」といった言葉をかつての小学時代の同級生だった名誉職が「それは、逆じゃありませんか。男が慾を捨て、女が嘘をつく事をやめる、とこう来なくてはいけません」と「反対する」ところから始まります。 では、なぜ名誉職は「私」のその言葉に反対しなければならなかったのか、また、誰のどんな「嘘」がこの話では問題になっているのか、作品の末尾で「私」が「微笑した」理由も含めて考えていけたらと思っています。 |
6 | 11/20 | 川端康成「水月」ー作品末尾、後の夫との子供が「前夫に似ていたらどうしましょう」と語られるのはなぜかー | 作品の末尾で京子は「子供があなた(前夫)に似ていたらどうしましょう。」と「自分でもおどろくようなこと」をつぶやきますが、前夫はすでに亡くなっており、後の夫との子どもである以上、前夫に似ていることはないはずです。では、なぜ京子はこのようなことをつぶやくことになったのでしょうか。 「鏡のなかの世界」とは何かという問題や「神は人間を自分の顔が自分で見えないようにつくったのに、どういう意味があるのだろうか」などの問題も含めて考えていけたらと思っています。 |
ご受講に際して(持物、注意事項)
◆休講が発生した場合の補講日は11月27日を予定しています。
講師紹介
- 相沢 毅彦
- 早稲田大学高等学院教諭
- 専門は近現代文学研究、現代文学理論。これまでの勤務校での授業では村上春樹、夏目漱石、森鷗外、芥川龍之介、志賀直哉、中島敦、川端康成、太宰治、三島由紀夫、山田詠美などの作品を扱ってきた。また、宮崎駿『となりのトトロ』、『千と千尋の神隠し』、新海誠『君の名は。』、『すずめの戸締り』、ウォシャウスキー兄弟『マトリックス』といった映画、サン=テグジュペリ『星の王子さま』、宮沢賢治、あまんきみこなどの童話の解説も行う。2009年から現職。2014年には文学理論を研究するため特別研究期間を取得し、パリ第七大学にビジター研究員として1年間在籍。共著として『有島武郎事典』、『可能性としてのリテラシー教育』、『〈教室〉の中の村上春樹』、『第三項理論が拓く文学研究/文学教育 高等学校』などがある。