ジャンル 現代社会と科学

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進化心理学入門―お人好しで、だまされやすい人類が生き残ったワケ

  • 夏講座

石川 幹人(明治大学教授、同大学博物館長)

曜日 木曜日
時間 15:30~17:00
日程 全8回 ・07月04日 ~ 09月05日
(日程詳細)
07/04, 07/11, 07/18, 07/25, 08/01, 08/22, 08/29, 09/05
コード 720771
定員 30名
単位数 1
会員価格 受講料 ¥ 23,760
ビジター価格 受講料 ¥ 27,324

目標

・心理学と生物学が融合して、昨今人間の科学的な理解が飛躍的に進んだ現状を実感する。
・人類がこのように進化した背景では、昔の生活環境が大きく影響している事実を認識する。
・進化心理学の分析で我々の日常的な悩みの原因がつきとめられ、対処法までをも考案できることを理解し、一部実践する。

講義概要

本講義では、進化心理学の基本的考えを身につけ、それが人間理解を促進し、現代社会の生きづらさを解消する手がかりとなる実態を学ぶ。我々の心は、数百万年も続いた狩猟採集生活の環境に合致しているため、文明社会にはなかなか適応できていない。わずか1万年前から発展しはじめ今日まで続く文明社会は進歩が速すぎて、人間の心の進化は及ばないのである。つまり、感情や欲求の現れ方から意思決定や価値判断の下し方まで、生物学的・人類学的な影響を大きく受けているので、我々自身の理解には祖先の生活様式を熟知する必要がある。今回はとくに、受講生が抱える身近な問題を例にあげながら解説するので、問題を持ち寄っての受講を歓迎する。

各回の講義予定

日程 講座内容
1 07/04 進化心理学は人間の本性を知るための効果的な方法を提供している 進化心理学は、進化生物学の知見が心理学に導入されたことを発端に、1990年代から発展を始めた。今日では心理学にとどまらず、人間に関する諸科学の基盤となる考え方として、進化心理学が広く受け入れられるようになり、とくに行動経済学の分野では人間の意思決定の分析に不可欠になっている。この回では、恐怖感情の役割、聞く話すと読み書きの違い、保有効果などの認知バイアスの由来をとりあげ、進化心理学の有用性を理解する。
2 07/11 人間の心理構造の形成には遺伝情報の寄与がきわめて大きい 進化心理学では、人間の脳が形成される過程で遺伝情報が働いて、個々人の能力や性格の特徴が生得的に方向付けられていると考える。この生得性は、双子研究によって定量的に実証されている反面、教育現場をはじめとして反感を招く種ともなっている。この回では、双子研究の概略を学び、人間形成には「氏も育ちも重要」という人間理解にいざなう。そして、人間の実情を適切に把握したうえで、人と社会の行く末を考える基盤とする。
3 07/18 人間固有の「ヒトの心」は狩猟採集時代に進化によってつくられた 人間らしい感情とされる義理人情、正義感、公平感、共感などは、数百万年も続いた狩猟採集時代の生活環境への適応として進化した。長く続いた生活環境にふさわしい行動傾向が、我々の遺伝情報に刻み込まれたのである。この回では、狩猟採集生活の特徴である、小集団における一蓮托生の協力と社会的分配が、いかに我々の心理構造に深く根付いているかを、裏切り者検知モジュール、承認欲求や居場所希求などを例に学んでいく。
4 07/25 過去ジャングルで生活していた時期に進化した「サルの心」も同居している 人類は、気候変動でアフリカのジャングルが乾燥し、草原になったために食べ物が減り、仕方なく狩猟採集生活をするようになった。しかし我々は、ジャングルにて自給自足で利己的な生活を送っていた祖先由来の行動傾向もまた身につけている。この回では、配偶者選択、子育ての愛情、食料をめぐる争い、支配服従関係などを取り上げ、それらが動物的な感情や行動傾向に起源があり、生物の歴史からすると古くに進化した実情を知る。
5 08/01 農耕牧畜が発明され人口密度が上昇した結果「文明の心」が必要となった 約1万年前、人類は農耕牧畜を発明することで、限られた土地での食糧増産の手段を確立した。すると人口密度が急上昇し、狩猟採集時代の小集団を超える大集団を形成するようになった。しかし、1万年間では「ヒトの心」は大集団に対応できるように進化できないので、仲間内の内集団とその外側の外集団を分ける手立てを確立した。この回では、法律・経済・政策・宗教などの社会制度に対応する心理を「文明の心」として解説する。
6 08/22 現代社会の生きづらさは「3つの心」のせめぎ合いで生じている 文明社会では当初、小さな内集団で「ヒトの心」を発揮できる生活環境を実現するように努めてきたが、人口密度が上がって数百人規模の組織が登場した。そこでは「サルの心」を利用した階層関係が多く導入され、ハラスメントの発生につながった。さらに現代では人間関係の流動化が高まり、外集団との交流が不可欠となったため「文明の心」を教育する方向になった。この回では、人みしりや人間関係の悩みを取り上げ解体する。
7 08/29 幸福に生きるには理性を発揮して妥当な環境を選びとっていく必要がある 現代社会では、狩猟採集時代のような「ほのぼのとした助け合いコミュニティ」はほとんどなくなっている。そのため各個人は知恵を絞って、自分に合った生活環境を整備したり探し出したりしなければならなくなった。この回では、環境に応じて複数の自己を演ずる分人主義が、現代社会を生きるのに有効な手段であることを論じる。また、見知らぬ人々間の協力増進を目的として発明されたお金が、幸福感を減退させる実態を解説する。
8 09/05 文明社会を生きやすい環境に変える技術的な発展が可能だろうか 現代では、扇動政治家によるポピュリズムの台頭、人口増加による環境破壊や食糧難の発生など、大問題が山積している。それらの問題の発生源は、進化心理学の分析によると「3つの心」のせめぎ合いにさかのぼることができる。この回では、昨今発展がめざましい生成AIの技術が、そのせめぎ合いを緩和できる可能性を論じる。また、講義のまとめとして、受講者が直面する身近な問題をとりあげて、それらの対処法を講じる。

ご受講に際して(持物、注意事項)

◆休講が発生した場合の補講は、9月12日(木)を予定しています。
◆ご受講にあたり著書『進歩した文明と進化しない心〜進化心理学で読み解く、私たちの本性』(カンゼン)をお読みいただくと、より理解が深まります。
◆Zoomウェビナーを使用したオンライン講座です。
◆お申込みの前に必ず「オンラインでのご受講にあたって」をご確認ください。
◆本講座の動画は、当該講座実施の翌々日(休業日を除く)17:30までに公開します。インターネット上で1週間のご視聴が可能です。視聴方法は、以下をご確認ください。
【会員】授業動画の視聴方法(会員向け)
【ビジター・法人会員】授業動画の視聴方法(ビジター・法人会員向け)

講師紹介

石川 幹人
明治大学教授、同大学博物館長
1959年東京生まれ。企業で人工知能の研究開発に従事し、博士(工学)を取得。1997年に明治大学に赴任し、情報コミュニケーション学部長、大学院長などを歴任。心理学、脳科学、生物学の学際領域を長年探究しており、『だからフェイクにだまされる〜進化心理学から読み解く』(ちくま新書)など、著書多数。NHK「チコちゃんに叱られる!」に4回登場するなど、メディア出演も多数。
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