ジャンル 現代社会と科学
中野校
新旧ブロック時代のトルコ 地政学上の利点とリスクから
野中 恵子(トルコ研究者、作家、トルコ語専門家)

曜日 | 水曜日 |
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時間 | 10:40~12:10 |
日程 |
全6回
・07月03日 ~
08月07日 (日程詳細) 07/03, 07/10, 07/17, 07/24, 07/31, 08/07 |
コード | 320703 |
定員 | 24名 |
単位数 | 1 |
会員価格 | 受講料 ¥ 17,820 |
ビジター価格 | 受講料 ¥ 20,493 |
目標
・トルコの地政学上の重要性を再認識する。
・トルコの対外関係における歴史的文脈を知る。
・トルコの多極展開努力とその戦略を知る。
講義概要
トルコ共和国の経済・安全保障ブロックへの帰属性は、独自性と多様性、柔軟性を示しています。これはビザンツ(ローマ)・オスマン両帝国の相続人として、全方位的な対話の蓄積・特異な民族性・戦略的要衝の地の領有により様々なブロック体験をしているからで、トルコを“中東イスラム圏の地域大国”と見るばかりでは、EUやNATOなど既存の巨大ブロックを適切に理解することはできません。現在、世界では新たなブロック化の動きがあり、周辺地域は多重の紛争状態となっている中、トルコは新旧のパートナーとどのように関わっていくのでしょうか。トルコの歴史的文脈を振り返りつつ、地政学上の利点とリスクの両面から考えていきます。
各回の講義予定
回 | 日程 | 講座内容 | |
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1 | 07/03 | トルコとヨーロッパ 〜不動の国是としてのヨーロッパとの一体性〜 | トルコにとりヨーロッパとの一体性は帝政ローマの拡張支配に元を辿り、ビザンツ・オスマン両時代に東西間の確執は体験しても、基幹的なブロック性である。誤解されがちなようにトルコが新生に伴い選択した新たな方向性ではない。しかし第1次大戦の戦後処理の一環でギリシアと宗教別の住民交換を行ない、原則イスラム教徒のみの国に転換したことが、向後に大きな影響をもたらした。第2次大戦後の復興期に遡るトルコのEU加盟問題に顕著なとおり、西欧が時の都合に応じてトルコの処遇を変動させても、トルコにとってヨーロッパとの一体性維持は不動の国是であるのを見ていく。 |
2 | 07/10 | トルコとNATO・アメリカ 〜関係性変化の兆しの中で〜 | トルコの対米関係は国際連盟発足以降、安全保障問題を基軸に進展した。第2次世界大戦後、トルコは建国期に西欧の支援を受けられなかったことや西欧の戦災が要因となってアメリカの支援を仰いだが、冷戦を背景にしたアメリカの対ソ政策・対中東政策に翻弄される結果になった。しかしエルドアン現大統領の長期安定政権下で、従来の顕著な対米追随姿勢は変化してきている。国内軍需産業の強化やシリア内戦、ロシア・ウクライナ戦争へのトルコの対応、拡大NATO問題へのコミットを通じた発言権強化などに見るトルコの立場の変化や、次期米大統領選出後のトルコの出方などについて考える。 |
3 | 07/17 | トルコと東アジア 〜トルコは現代のシルクロードに賭けるのか〜 | トルコと東アジアは古来東西の巨大文明圏どうしシルクロードで繋がれてきたが、近代になっても主立った関係性は構築されず、中国が改革開放政策を軌道に乗せると、トルコは中国との対話蓄積が殆どないまま大幅な対中貿易赤字を続けることになった。その中でトルコが一帯一路と上海協力機構にどのような期待と警戒感を寄せているかを、トルコが推進する自国の物流ハブ拠点政策の中での位置づけから考える。またトルコは日本や韓国にとり、中国の進出以前から現地生産・貿易ハブ拠点として一定の関心対象の国であることから、投資先としてのトルコの魅力・リスクについても考える。 |
4 | 07/24 | トルコと中東 〜イスラム世界の枠組みの中で〜 | トルコが原則イスラム教徒の国に換わって建国された当然の帰結として、元々イスラム教徒の人口比率が高かった旧属州のアラブ諸国及び隣国イランとの間にはイスラム教を通じたブロック性が醸成したが、エルドアン政権前は地域情勢の不安定さとトルコの西欧志向により、イスラム協力機構への積極的な関与は手控えられた。同政権下になり、トルコは旧宗主国兼イスラム圏の盟主としての立場を陰に陽に打ち出すアプローチに転換したが、これにはどのような国益とリスクがあるのか。2023年秋以降のイスラエルのガザ攻撃で、新たな局面に入った中東情勢とともに考えてみる。 |
5 | 07/31 | トルコとBRICS・グローバルサウス 〜新たな機会の創出は〜 | BRICSと当初称された国々は過去に西欧列強との確執を体験した潜在力が高い広域国で、殆どは歴史上の帝国であり、トルコが含まれなかったのは、オスマン領の一部のみを継承した中規模国であったことが大きいと考えられる。しかし現在トルコでは、組織化・拡大するBRICSへの加盟の是非が議論されている。方やグローバルサウスに対しトルコの位置づけは画然として異なり、トルコは従来から支援国の立場で展開する積極的な対アフリカ政策を重視している。トルコが国際社会で単独での発言力を強めた中、両ブロックとの関係性にどのような展望を抱いているのかを考える。 |
6 | 08/07 | トルコと黒海・コーカサス地域 〜旧知の近隣諸国との今後は〜 | ロシア、ウクライナを筆頭に旧ロシア帝国・ソ連領であった黒海・コーカサス諸国はトルコにとり、オスマン時代には領土戦争を断続的に繰り返した経験や、トルコに影響しうる複雑な民族・宗教問題がある他、エネルギー供給上の重要な近隣諸国であり、安全保障の担保を最も要する地域と言える。冷戦終結直後、トルコがこれらの地域に旧オスマン領のバルカン諸国を合わせた黒海経済協力機構の構想を打ち出したのはその現われであり、講師私見では同機構は今後、ロシア・ウクライナ戦争の今後にかかわらず、トルコが安定的な発展のためにより重視する装置になりうる。トルコの回廊国家としての地の利に照らして考えてみる。 |
ご受講に際して(持物、注意事項)
◆休講が発生した場合の補講は、8月21日(水)を予定しています。
講師紹介
- 野中 恵子
- トルコ研究者、作家、トルコ語専門家
- 1965年生まれ。トルコの政治・社会・歴史などを探究。慶應義塾大学非常勤講師、朝日カルチャーセンター講師、外務省通訳研修講師、NHK同時通訳者、東京国際映画祭通訳者。関西学院大学文学部英米文学科卒・一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程単位修得退学。著書に『史跡・都市を巡るトルコの歴史』(ベレ出版)、『ビザンツ、オスマン、そしてトルコへ:歴史がつなぐ社会と民族』(彩流社)、『最後のローマ皇帝』(作品社)、『ドイツの中のトルコ:移民社会の証言』(柘植書房新社)他。