ジャンル 人間の探求

中野校

イエス時代のユダヤ教思想

  • 秋講座

市川 裕(東京大学名誉教授)

曜日 火曜日
時間 15:05~16:35
日程 全8回 ・10月08日 ~ 11月26日
(日程詳細)
10/08, 10/15, 10/22, 10/29, 11/05, 11/12, 11/19, 11/26
コード 330518
定員 24名
単位数 1
会員価格 受講料 ¥ 23,760
ビジター価格 受講料 ¥ 27,324

目標

・聖書を共有する2つの一神教、ラビ・ユダヤ教とキリスト教の成立とその思想への理解を深める。
・2つの一神教が胎動する激動の古代ユダヤ史とはどんな時代かを知る。
・ユダヤとギリシアとローマの3つの文化の重層化への視点を身につける。

講義概要

この講義では、キリスト教的な時代区分―旧約時代・中間時代・新約時代―を使わない。イエスが活動した時代のユダヤは、既にギリシア文化の影響下で300年を経過し、ローマ支配下に入って100年近くを経ているので、ユダヤ教とキリスト教に共有された特徴を考えるために、3つの異なる文化の重層性に注意する必要がある。ローマの地中海征服の時代に、ヘロデとイエスが登場し、その50年後には、ローマとの大戦争でユダヤ国家は崩壊する。ユダヤ社会は史上まれな危機の時代を経験し、その中で生まれた多様な思想から二つの一神教が成立する。その歴史的展開と一神教の成立、とくに、ユダヤ教とキリスト教の共通点と違いを明らかにしたい。

各回の講義予定

日程 講座内容
1 10/08 イエス時代の文化的背景を考える アレクサンドロス大王のペルシア遠征以来、ユダの地でギリシア・ローマ・ユダヤの文化がいわば3層に重なる構造が形成される。ギリシア文化に対抗してユダイズムの自覚が生まれるが、その中身をめぐって百家争鳴状態に。これも、国家・領土・神殿・首都を持つことの安心感に支えられていた。
2 10/15 ローマ直接統治下のユダヤ社会 ユダヤ人がハスモン朝による独立国家を建設して100年を迎えるころに、ローマが世界支配を展開してエルサレムを征服。ヘロデ王の統治後、アウグストゥスの時代にローマがユダヤを直接支配へ。メシア思想が高まり、ついに戦争に至る。
3 10/22 パリサイ派による律法主義の考え方の登場 大祭司による神権政治やダビデ王権の支配を望む人々のほかに、モーセの律法にユダヤの民の将来を託す人々が出現する。ラビ文学では賢者と呼ばれ、ヨセフスや福音書ではパリサイ派と呼ばれる集団である。彼らのユダヤ教の変革は神殿供犠に向かった。それはなぜだったか。
4 10/29 ナザレ人イエスとは何者か ユダヤ思想は百家争鳴状態だった。祭司階級、ヘロデとその一団、パリサイ派、サドカイ派、エッセネ派、死海教団、洗礼者ヨハネ等々。その中で登場したイエスという人物はわずか1年から3年の活動で処刑された。その行動は後にどう意味づけられていくことになるのか。
5 11/05 ユダヤ教はいつ神殿供儀の宗教から律法主義の宗教に変化するか ユダヤ社会は、究極的には神殿供儀という交流手段によって神との関係を維持してきたが、ローマ軍により神殿は西暦70年に破壊された。ユダヤ教はその後神との交流をどう維持するのか。日本隊がガリラヤで発掘したシナゴーグの形態をヒントに、この問題を考えてみたい。
6 11/12 ローマの5賢帝時代になぜユダヤとの間で大戦争が繰り返されたのか ローマ皇帝の帝国運営とユダヤ人側の国家像とがなぜ折り合わなかったのか。ローマ帝国の最大版図を誇ったトラヤヌス帝からハドリアヌス帝にかけて、ユダヤ社会が徹底的な破壊からいかにして蘇生していくのか、その経過を追ってみたい。
7 11/19 ラビによる口伝トーラーの編纂の意義: ローマとの2度の大戦争を経て国土と神殿と聖都を失ったユダヤの民は、西暦200年頃には、宗教共同体としての成立を見るとともに、異邦人キリスト教が独自の新約聖書を編纂して自他ともに両雄相並ぶ形になっていく。一神教の2つの宗教共同体はどのようにして自らのアイデンティティを確立したのだろう。
8 11/26 中東・東地中海における一神教の展開 社会的基盤をすべて失ったユダヤ社会から生まれたキリスト教は、4世紀にローマ帝国で公認されると、100年のうちに国教化された。そればかりか、帝国外の地域でも、各民族を統合する役割を持って、西アジア各地に急速に教勢を拡大。また同じ地域に、律法主義によって明確な共同体を形成したユダヤ教も広く進出して、一神教が併存する新時代が到来した。では二つの一神教に共通する特徴とは結局何なのか。

ご受講に際して(持物、注意事項)

◆休講が発生した場合の補講日は12月3日(火)を予定しています。

講師紹介

市川 裕
東京大学名誉教授
法学を学んだ後、一生の仕事として聖書研究を志し宗教学の大学院で旧約聖書を学ぶが、イエス時代のユダヤ教に強く惹かれ、ヘブライ大学に留学し律法研究に取り組む。現地のシナゴーグで1年間毎朝の礼拝に出て感銘を受ける。著書に『ユダヤ教の精神構造』、『ユダヤ的叡智の系譜』(ともに東京大学出版会)、『ユダヤ人とユダヤ教』(岩波新書)など。他に、神話学者の松村一男氏と監訳したJ・リュプケ著『パンテオン―新たな古代ローマ宗教史』東京大学出版会2024、日本ユダヤ学会編・編集代表市川裕『ユダヤ文化事典』丸善出版2024。

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