ジャンル 文学の心
早稲田校
名作への招待、近現代文学150年
中島 国彦(早稲田大学名誉教授)
宮内 淳子(立正大学講師)
山本 亮介(東洋大学教授)
藤井 淑禎(立教大学名誉教授)
石割 透(駒澤大学名誉教授)
庄司 達也(横浜市立大学教授)
小菅 健一(山梨英和大学教授)
篠崎 美生子(明治学院大学教授)
曜日 | 月曜日 |
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時間 | 15:05~16:35 |
日程 |
全8回
・09月30日 ~
12月02日 (日程詳細) 09/30, 10/07, 10/21, 10/28, 11/11, 11/18, 11/25, 12/02 |
コード | 130108 |
定員 | 30名 |
単位数 | 1 |
会員価格 | 受講料 ¥ 23,760 |
ビジター価格 | 受講料 ¥ 27,324 |
目標
・日本近代現代文学の名作・問題作に照明を当てていきます。
・よく知られた名作はもちろん、あまり注目されていない優れた作品を、積極的に紹介していきます。
・明治から現代まで、幅広く名作・問題作を扱っていきます。
講義概要
今年の春学期からリニューアルしたこのオムニバス講座は、講師がぜひ皆さんに読んでいただきたい作品、新たにその面白さが発見された作品を、重点的に紹介していきます。篠崎美生子、宮内淳子、山本亮介、藤井淑禎、石割透、庄司達也、小菅健一、中島国彦の8名が、さまざまな時代の個性豊かな作品を浮き彫りにしていきます。文庫本などで比較的簡単に入手できる作品を選んでみました。150年間の文学の世界の万華鏡を、お楽しみください。
各回の講義予定
回 | 日程 | 講座内容 | |
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1 | 09/30 | 中島敦「山月記」―人間性がなければ虎になるのか? | 「臆病な自尊心と、尊大な羞恥心」という一節に、自分の心を言い当てられたような気持ちがした方は少なくないことでしょう。この小説は虎となった李徴自身に、自分のように人間性の乏しい者はそうした「内心にふさわしい」「あさましい」獣に「身を堕すのだ」と言わせてしまいます。――しかし、身も蓋もないことを言えば、これしきのことで人が虎になるはずはありません。むしろ、不条理な出来事に際して、自分に原因があるのではないかと思い、わが身を責める李徴のありようは、きわめて人間的だとも言えそうです。では一体、小説のどのような力が、李徴と読者を追い詰めてきたのでしょうか。時代背景も併せて考えてみたいと思います。(篠崎美生子) |
2 | 10/07 | 石川淳「おとしばなし」シリーズが描く戦後風俗 | 石川淳は、闇市の光景に聖書のイメージを重ねて混沌からの出発を示す「焼跡のイエス」(1946)で、戦後の再スタートを切った。1949年から翌年にかけて発表した「おとしばなし」(「堯舜」「李白」「和唐内」「列子」「管中」「清盛」)も神話や歴史上の偉人を同時代の風俗の中に置くという手法を取る。しかし中間小説誌に発表されたこのシリーズは、社会批判がありつつも、「焼跡のイエス」にない軽い味わいを持つ。戦中に石川が傾倒を表明していた江戸文学との関連に留意しつつ、このシリーズの面白さを味わいたい。集英社文庫『おとしばなし集』(絶版・デジタル版あり)か『石川淳全集』(筑摩書房)第四巻。)(宮内淳子) |
3 | 10/21 | 森鷗外「うたかたの記」と音楽 | 1890(明治23 )年に発表された「うたかたの記」は、「舞姫」・「文づかひ」と合わせて、鷗外のドイツ三部作と称される小説です。そこでは、ドイツ留学中に起きたバイエルン王ルートヴィヒ2世の横死をモチーフに、浪漫的な香気に溢れたドラマティックな悲劇が展開されています。西洋の芸術文化からのさまざまな影響が映し出された作品ですが、本講座では、表立っては現れない〈音楽〉の要素を取り上げます。鷗外がドイツで体験した音楽の残響を、作品の表現に感じ取ることができればと思います。テキストは、岩波文庫『舞姫・うたかたの記―他三篇』ほか、各種文庫本で入手できます。(山本亮介) |
4 | 10/28 | 水上勉の伝統工芸ルポと薄倖な女性主人公もの | 水上勉には実に多くの薄倖な女性を主人公にした「大衆小説」がある。『湖の琴』『紅花物語』『西陣の女』など枚挙にいとまがないほどだ。しかもそれらは1965年から70年過ぎにかけて書き継がれた『失われゆくものの記』『負籠の細道』などの辺境ルポルタージュ、伝統工芸ルポルタージュでの収穫を基にしたものが多い。最上の紅花栽培を基にした『紅花物語』、信濃の山蚕(やまこ)と有明紬を基にした『西陣の女』といったように。今回はその中でも『西陣の女』を中心にして、水上におけるルポルタージュと「大衆小説」との二人三脚ぶりについて考えてみたい。(新潮文庫『西陣の女』―アマゾンで中古品あり)(藤井淑禎) |
5 | 11/11 | 短篇小説の面白さ | 1960年代には、面白い、奇妙な味の短編小説などが注目され、ロアルド・ダールの「南から来た男」などがもてはやされ、サキ、グレアム・グリーン、チエホフ、ヘミングウエイなどの作品も、新たに見直されたりしましたが、この時間では、芥川龍之介、菊池寛、谷崎潤一郎、三島由紀夫、江戸川乱歩あたりの、あまり人に知られてはいない、これぞ短編小説の面白さ、というべき作品を紹介し、読んでみたく思います。が、取り上げる作品は当日のお楽しみ、としていただき・・・。ネタバレの講座になることを恐れますが・・・。一つだけ教えれば、芥川の「報恩記」です。(石割透) |
6 | 11/18 | 「文学好きの家庭から」から見る文士芥川龍之介―新進青年作家の「戦略」と「野望」 | 400字詰原稿用紙にして2枚に満たないエッセイ「文学好きの家庭から」は、雑誌『文藝倶楽部』編集部の依頼に応えた一文です。「自伝の第一頁(どんな家庭から文士が生まれたか)」との大見出しが掲げられ、加能作次郎、広津和郎、三木露風らと共に掲載されました。全国の年少の文芸愛好家や作家志望の人々にとっての教則本としてあっただろうこの雑誌で展開された若き日の芥川龍之介の「文壇」新出の「戦略」を、彼の同時期の文章と共に読み解きたいと考えています。(庄司達也) |
7 | 11/25 | 庄野潤三「静物」ー断章形式がもたらす日常と非日常のあわい | 一見すると、どこにでもあるようなごく普通の家庭において、日常生活の様々な局面で生起する些細な出来事の数々を、その時代を生きた市井の人々の記録として作品化していった〈第三の新人〉の一人として戦後の文学をリードした庄野潤三の「静物」(昭35年6月)を読解したいと思います。この作品は過去に起こった夫婦の間のある事件が、現在のちょっとした日常の出来事の背後に時々顔を覗かせてきて、平凡な家庭(夫と妻、三人の子供たち)にとても微妙な翳を落としていることを淡々と描いた名作です。書きたいことが書けなくて悩んでいた時に、佐藤春夫から受けたアドバイスを生かして、断章形式に分けて書き上げた構成の妙と効果を味わって下さい。「静物」は庄野潤三『プールサイド小景・静物』(新潮文庫)で読むことが出来ます。(小菅健一) |
8 | 12/02 | 北原白秋の歌集『桐の花』の世界 | 春学期は白秋の詩集『思ひ出』を扱いましたが、秋学期は短歌の世界を紹介します。 「春の鳥な鳴きそ鳴きそあかあかと外の面の草に日の入る夕べ」の叙景から、「かくまでも黒くかなしき色やあるわが思ふひとの春のまなざし」の抒情まで、白秋短歌の魅力を分析します。あわせて、第一歌集としての『桐の花』の宇宙をあとづけます。白秋の短歌の集成として、『北原白秋歌集』(岩波文庫)があります。(中島国彦) |
ご受講に際して(持物、注意事項)
◆休講が発生した場合の補講日は12月9日を予定しております。
講師紹介
- 中島 国彦
- 早稲田大学名誉教授
- 1946年東京都生まれ。早稲田大学大学院博士課程修了、博士(文学)。公益財団法人日本近代文学館理事長。日本近代文学専攻。著書『近代文学にみる感受性』(筑摩書房)、『夏目漱石の手紙』(共著、大修館書店)、『漱石の愛した絵はがき』(共編、岩波書店)、『漱石の地図帳―歩く・見る・読む』(大修館書店)、『森鷗外 学芸の散歩者』(岩波新書)等。
- 宮内 淳子
- 立正大学講師
- 東京生まれ。早稲田大学教育学部卒。博士(人文科学、お茶の水女子大学)。専門分野は日本近代文学。帝塚山学院大学教授を経て、現在は立正大学で非常勤講師を勤める。著書に『谷崎潤一郎 異郷往還』(国書刊行会)、『岡本かの子論』『藤枝静男』(EDI)、共著に『上海の日本人社会とメディア』(岩波書店)など。
- 山本 亮介
- 東洋大学教授
- 1974年、神奈川県生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(文学)。専門分野は、日本近現代文学。信州大学を経て現職に至る。著書に、『横光利一と小説の論理』(笠間書院)、『小説は環流する―漱石と鷗外、フィクションと音楽』(水声社)などがある。
- 藤井 淑禎
- 立教大学名誉教授
- 愛知県豊橋市生まれ。慶應義塾大学卒業。立教大学大学院博士課程満期退学。専門は日本近代文学・文化。著書に、『清張 闘う作家』(ミネルヴァ書房)、『名作がくれた勇気』(平凡社)などがある。
- 石割 透
- 駒澤大学名誉教授
- 1945年京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、同大学院文学研究科博士課程単位取得修了。専門分野は日本近代文学。『芥川龍之介全集』、『芥川龍之介資料集』共同編集の他、著書『芥川龍之介初期作品の展開』(有精堂)、編著書『芥川竜之介書簡集』『芥川竜之介随筆集』(岩波文庫)『ジャズ』(ゆまに書房)などがある。
- 庄司 達也
- 横浜市立大学教授
- 1961年東京生まれ。芥川龍之介の〈人〉と〈文学〉を主たる研究テーマとするが、出版メディアと作家、読者の関係などにも関心を強くしている。近年は、近代の作家たちが聴いた音楽を蓄音機とSPレコードで再現するレコード・コンサートなども企画している。編著書に『芥川龍之介ハンドブック』(鼎書房)、『日本文学コレクション 芥川龍之介』(共編著、翰林書房)、『芥川龍之介全作品事典』(共編著、勉誠出版)、ほか。
- 小菅 健一
- 山梨英和大学教授
- 文学修士(早稲田大学)。専門分野は、日本近現代文学および表現論。山梨英和大学において日本近現代文学、現代文化論、現代芸術論、日本語スキル(初年次教育)や公開講座の日本近現代文学の作品講読を担当。共著書に『日本文芸の系譜』『日本文芸の表現史』他、近著に『未来の学び 小学生のための生涯学習講座』。
- 篠崎 美生子
- 明治学院大学教授
- 日本近現代文学専攻。博士(文学、早稲田大学)。芥川龍之介の小説から研究を始め、その後、日本近代文学とナショナリズムの関係に関心を持つ。近年は、日本近代文学と中国との関わり、原爆と文学の関わりについて研究中。単著に『弱い「内面」の陥穽』(翰林書房)がある。