ジャンル 現代社会と科学

中野校

人類の金融:公共空間の信用、私的空間の信用、そして仮想空間の信用

  • 秋講座
  • 資料配付

齊藤 誠(名古屋大学教授)

曜日 金曜日
時間 15:00~16:30
日程 全5回 ・10月11日 ~ 12月06日
(日程詳細)
10/11, 10/25, 11/08, 11/22, 12/06
コード 330714
定員 30名
単位数 1
会員価格 受講料 ¥ 14,850
ビジター価格 受講料 ¥ 17,077

目標

・「信用」という言葉をキーワードに人類の金融史を見つめ直す。
・将来の金融のあり方を見据える視座を得る。

講義概要

中世の欧州では、カネを貸す人と借りる人は人々の前で口頭で約束し、公証人がつけた帳簿は誰もが閲覧できました。ホラ貝が鳴り響くなか、多くの人々の前で口上を述べながら偉そうに借金を申し込み、債務証書に相当する割符を金貸しに投げつけた古代の金融の風景に近かったのです。
しかし、中世から近代への過程で、金融契約は、公共空間から私的空間へ、口頭から文書へと移行します。近代には、銀行が仲介し、知らない者どうしの間で膨大な規模の貸し借りが起きてきました。巨大な借り手は、戦争を仕掛ける国家であり、大事業を展開する企業家でした。貸借の規模が拡大し、信用が暴走すると、債務は焦げ付き、株価は暴落し、企業や個人が破綻する金融危機で経済社会はもみくちゃにされました。近代以降、信用の暴走を食い止める仕組みは人類の悲願でしたが、金貨、英国ポンド、あるいは、米国ドルが暴走を食い止める錨の役割を期待されましたが、結局、うまくいきませんでした。
現在、ビットコインに代表される暗号通貨は、信用を打ち立てるはずの銀行を抜きにして、見知らぬ者どうしが取引をする仕組みに挑戦しているという意味で人類の大実験といえます。金融がまさに私的空間の最果てに迷い込もうとしており、私的空間に深く潜伏してしまった信用を、再び公共空間に引きずり出してくることが私たちの将来の課題かもしれません。
本講義では、リーマンショックやら、ビットコインやら、フィンテックやら、現代社会を騒がしているさまざまな金融現象を見つめ直します。そして、金融の未来を見据える視座を手に入れようという欲張りな趣向です。

各回の講義予定

日程 講座内容
1 10/11 公共空間の信用:先史と古代の金融 第1回は、先史・古代社会では、信用のやり取りである金融が公共空間で執り行われていたことを明らかにします。文字が生まれる前の先史時代から穀物の貸借など金融は存在しました。割符と呼ばれる債務証書は、現代の金融契約の原型でした。貸借の内容を刻み目で記した木片を割符として二つに割り、片方が債務者の控えに、もう片方が証書として債権者の間で流通さえしました。古代社会では家族メンバーとみなされた奴隷、家畜、農地も売買や貸借の対象となりましたが、それらの受渡には多くの証人の前で厳格な儀礼を要しました。すなわち、あるモノが誰の支配下にあるのか、あるヒトとあるヒトの間にどのような貸借が交わされているのかは、共同体の人々の記憶として記録されていたわけです。
2 10/25 公共空間から私的空間に引っ越しをする信用:欧州における中世から近代にかけての預金契約 第2回は、欧州において中世から近代にかけて預金契約が公共空間から私的空間に移っていったことを明らかにしていきます。中世末期までの預金契約は、現代のものよりも、古代の貸借の形式に則っていました。銀行と預金者は、人々の前で口頭によって契約を交わし、公証人によって記録された帳簿は町の人々(文字を解する人は限られていましたが)に公開されました。しかし、近代に差し掛かって預金契約は、口頭から文書へ、公共空間から私的空間へと契約の場を移していきます。同時に貸借の記録も、共同体の記憶から、銀行が管理する帳簿に移りました。貸借の記録が共同体の記憶から離れていくとき、債務を履行する規律が乱れ、各地に債務者監獄を設けなければならないほど借金が踏み倒されたのです。
3 11/08 私的空間に深く潜伏する信用:銀行による信用の創造とその崩壊 第3回は、銀行の仲介のもとで、見知らぬ者どうしの間で大規模な貸借がなされるようになるプロセス、すなわち、銀行が信用創造の中核となっていく過程を明らかにしていきます。銀行の信用創造とは、銀行が貸出先に自らの銀行券を手渡して、貸出債権と預金債務を両建てで積み上げて、あたかも魔法のように信用を生み出していく仕組みです。17世紀の終わりころに近代の歴史が始まって以降、現在に至るまで、銀行の信用創造は暴走し、資産価格バブルが生成され、そのはてにバブルが崩壊するということが繰り返し起きてきました。こうした銀行が先導する信用創造の暴走に歯止めをかけることは、人類社会の課題となっていったわけです。
4 11/22 公的な干渉を拒む私的空間の信用:金本位、ポンド本位、そして、ドル本位 第4回は、銀行の信用創造の暴走に歯止めをかけようとしたさまざまな試みを振り返っています。こうした試みは、私的空間に深く潜伏した信用を、公共空間に引きずり出していく営為と言い換えることができるかもしれません。しかし、現実には、そうした試みは、時に私的空間からの激しい拒絶に遭遇し、時に私的空間の息の根を止めてしまうという両極端の結果を招いてきました。特に、後者の事例として、金本位制が私的空間の信用を極端に縮小させてしまった経緯を振り返ってみようと思います。
5 12/06 仮想空間に迷い込む信用、公共空間に引きずり出される信用:暗号通貨の現在と未来 第5回は、私的空間の中でも一番奥深いところにある仮想空間で繰り広げられている金融の姿を明らかにします。ビットコインという暗号通貨は、取引参加者が全く見知らぬ者どうしで、その間を仲介し、帳簿を記録する銀行がまったく不在の金融システムです。そうした歪(いびつ)な私的空間に信用を打ち立てるためには、欧州の小国のGDPに匹敵するような電力資源を投じないといけないという皮肉な現実があります。本講義の最終回では、ビットコインの事例を引き合いに出しながら、信用を公共空間から私的空間、さらには仮想空間への伸びていくベクトルのどの辺にまで、本来の金融を引き戻すべきなのかを考えてみたいと思います。

ご受講に際して(持物、注意事項)

◆講義と講義の間に二週間のインターバルがありますので、予習や復習に有用な資料や論文を配付しようと思っています。もちろん、予備知識を前提としないものを選んでいきますが、できるだけ興味を持って読んでもらえるような素材を準備します。「聴く」だけでなく、「読む」という要素をできるだけ取り入れていきたいと思っています。

講師紹介

齊藤 誠
名古屋大学教授
名古屋市生まれ。Ph.D.(MIT)。専門分野はマクロ経済学。著作に『危機の領域』(2018年)、『震災復興の政治経済学』(15年)、『原発危機の経済学』(11年、石橋湛山賞)、『資産価格とマクロ経済』(07年、エコノミスト賞)、『金融技術の考え方・使い方』(00年、日経経済図書文化賞)など。
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